Paula

MISS OSAKA ミス・オオサカのPaulaのネタバレレビュー・内容・結末

MISS OSAKA ミス・オオサカ(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

映画の解説だけを読めば、フランスとイタリアの合作映画で裕福で身勝手な人間に成りすます若者の姿をラストが象徴するようにシニカルに描き切った作品を思い出すけれども...

Gardener: Are you sisters?
Maria: What did he say?
Ines: He asked if we were sisters. このセリフは映画の伏線となっている。
それよりも... 内容的にシナリオの中核とされる部分が交差している『Dead Ringer :邦題『誰が私を殺したか?』(1964)』と一見、そのようにも感じるけれども蓋を開けてみたら全くの別物としか言えないシナリオとなっていた。  そんなくだらないことは別にして...

I told you, that I like your smile. Because there is
something so true in your smile.
So innocent.
You are such a special girl. You just don't know it.
You, you wish you could be anyone but yourself.
But you can only be Ines. you are not fake 
...And you're so lucky.
最初イネスのこのセリフにおける "You" が誰なのか?鈍感な脳ミソにシワの無いあたしでは見当がつかなかった。でもその目がうつろで世間の不幸を一手に引き受けているような彼女がその暗さに薄明かりを見つけたようだと解釈すれば、映画を見ているあたしやイネス自身もハッピーなのでいいかなって、そう思う様にしている。

2017年日本・デンマーク外交関係樹立150周年...それほど大げさでは決してありませんのでよろしくお願いします。映画関係者ではありませんけど念のため!?

失礼な話、TOKIOではなく、舞台がOSAKAなのが、なんたっていい!?
雰囲気から、ゴミゴミした印象でしかない大阪をこれほどまでに薄汚れていてもきれいに映し出されているのは初めてかもしれない。撮影監督と映画製作者のデンシック監督の思い入れが感じ取れる作品となっている。

自然あふれる大地を思わせる冬の寒々としたノルウェーでマリアとイネスは出会い、そして別の自分になりたいと大阪へ... その相反した二元の場所を行き来しながらノンラニアー・ナラティブで語られる本作『MISS OSAKA ミス・オオサカ』... この映画はとても切ない映画なんです。

ノルウェーと大阪の撮影スタッフをそれぞれ地元の人を使う事で雰囲気が崩されず、しかも『エレファントマン』の監督がのたまうように映像とサウンドエフェクトは50:50の立場にあるとするなら音楽を担当した本作にもテナーサックス奏者としてカメオ出演していた清水靖晃によって映画を壊さない優しくて澄んだ音楽となっている。
それにつけても在日をテレビ番組で語ったママさん役の南果歩という女優さん... 以前は大嫌いな女優さんの一人だったものが、ある映画を境にして彼女の年が分からない妖艶さに魅了され、その後のマイナーな外国映画に出演されていたのを欠かさず見るようにさせてもらった彼女が本作ではやりてババア(失礼、差別的です。)的立場のママさんって、彼女では美しすぎるし嫌みがなさすぎるのでミス・キャストではないかと考えたりもしたけど、「市尼」出身のと言われてもそもそも「市尼」って何なんて知らなければ彼女でしか言えない関西弁や慣れた英語も話せる女優は他に探しても彼女ほどの人が日本では誰もいないのかもしれない。

それとは別に日本映画を極力見ない狭量の心しか持ちえないあたしとしたら森山未來って東京人が英語ばかりの会話の中でどうやって関西弁をしゃべるのかと待っていると最後のセリフが耳を疑うほどの関西弁を流ちょうにって、「あれっ?」この人、まさか?そのまさかの神戸出身とは、どうも御見それしました。ファンからするとそんなことも知らないのかと大魔神のように激怒ってか...またまた失礼しました。 チュ💓 彼のクールさと鍛え上げられた肉体美によるグンバツなシーンをご覧あれ! 彼とは対照的に印象的に残る森本渚という女優さん... その素人っぽい演技と日本語イングリッシュを知っていて使うところが、この映画の前編の魅力にもなりLGBTの世界観の代表者のようにも映っている。

本作へのダニエル・デンシック監督の思い入れとは
"Don’t believe what you see. I can be whoever I want
to be, anyone except myself. We’re always so busy
worrying about who we are, about who we want to be,
about what we’re afraid of. And then, there are moments
when all those thoughts vanish:
you’re just there, and it’s magical."

ロケ地としては
黒川紀章がデザインしたとも大阪が発祥の地ともされるカプセルホテルに始まり、岸和田競輪場、商店街、路地裏、円形状に配置された墓地etc... 外国人観光客が決して目を向けることのない角度から撮影され、また大型施設のキャバレー業界全体が絶滅危惧種に指定されるほど多くの店が閉店へとおわれる中、唯一現存し最も歴史のある"ミス大阪" で特に「目を指す(方言です)」ことを嫌う水商売の場でロケの許可が下りたこと自体が必見に値すると個人的には思っている。
はっきり言ってしまえば、面白くもなく、当てもなく暗いだけの映画と評価されるかもしれない。でも日本人ですら描かない位置から大阪を見つめている映画製作者の粋でシャレたところを垣間見ることのできる作品となっている。

日本の税関の検査体制の甘さなんて野暮な言葉も聞こえるけれども
「なりたい自分になれる場所、自由な場所、夢を抱くための場所」が大阪であり、彼女イネスにとってはおっちゃんがジョギングしながら煙草をふかすようなパラドックス表現のよりどころとなっている。
Paula

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