あずき最中

天気の子のあずき最中のネタバレレビュー・内容・結末

天気の子(2019年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

小説版未読。

「君の名は。」で一躍知名度が上がったなかでどんな映画を生み出してくるのか......とおそるおそる観賞。
話の構成という点では、やっぱり「君の名は。」のジェットコースターのごときアップダウンには敵わないなと感じた。

でも、新海さんが「君の名は。」で良い評価もそうでない評価も、いろいろな声をぶつけられたうえで、「作品で何を伝えたいのか」、自分の気持ちをひたすらに1滴1滴濾過するようにして、この結末にたどりついたんだと感じさせてくる作品だった。

全体的には、複雑さは乏しいけれど、余計な飾りがなくひたすらに純度の高い作品だと思う。雨のシーンが多く、うすぐらかったり、描写がおとなしくなる箇所があるからこそ、ちょっとの晴れ間やキャラクターのいきいきとした動きや空気の動きが一段と輝いて見える気がした。

●帆高くん
見方によっては「青臭い」ともいえるけど、「だれしもがかつては帆高くんのような思いを持っていたんじゃないか」と思わされるほどにまっすぐな少年。
へたれっぽいけど、島を出てきちゃうわ本当に行動力に長けている......。

作中、かなりケガをしたり、涙をあふれさせる反面、絶対にへこたれず、生命力に満ちあふれていて、心を動かされた。

とくに後半で、大人たち(ひいては社会全体)の言葉に対して、「犠牲をうんで、それにだれも気づかないで、忘れて笑っている世界なんておかしい」「なんで邪魔をするんだ」とNOをつきつけるいくつかのシーンでは、感情移入して涙がこぼれそうになった。

それから、モノローグでは 「僕たちはなんとかやっていけそうです。これ以上何も足さなくていいから、どうか僕たちから何も引かないでください」の台詞が切実な祈りのようで好きだった。

※ちなみに、TOHO新宿で観賞していたので、序盤は「東京ってこえーな」という気持ちに共感しまくった。

●陽菜ちゃん
芯の強い子のようで、人一倍自分の無力さを感じてきた子なんだろうなと思う。
病気のお母さんを見守って、「晴れないかな」と祈って、お母さんがいなくなったあとは、年齢を偽ってまで働いている。
女の子の方が精神年齢が高いといわれるけれど、どんなに心が成長していても、ある年齢まではやっぱり無力さからは逃れられないんだなと切なくなった。

自分の存在が消えることに恐怖を感じながらも、帆高くんとの出会いをきっかけに自分がなんのために生まれてきたのかを見つけられたのは良かった。
終盤、鳥居に横たわるシーンで首のチョーカーが壊れている描写が不吉な反面、「無理に背伸びしたり、わかったふりをして大人になる必要はない」と陽菜ちゃんの解放を示しているようで、凝ってるなと思った。

●凪くん
帆高くんともども「先輩!」と崇めたくなるかっこよさ。クライマックスの叫びにひたすらしびれた......。

●夏美さん
大人っぽいけど、やっぱり大学生というか、大人と子どもを繋げる存在。世渡り上手そうなのに、就活では悩んでいるようで、人間味があっていいなと思った。

●須賀さん
飄々としているようで、守りたい人を守れなかった哀しさに満ちた人。
過去があるからこそ、いま守るべきものを守ろうとして、自分の気持ちそのままには動けなくなってしまう姿が切ない。

クライマックスでは、帆高くん&陽菜ちゃん(ひいては観客)の罪悪感や後ろめたさをぬぐってくれる存在でもある。
「お前たちのしたことなんて大したことない、思い上がんな」と、帆高くんの背を押して未来に向かわせてくれる姿、めちゃくちゃかっこよかった。

未来はいまの子どもたちが主役になって作っていくもの。もしも彼らが失敗したときに「そんなこと気にしないで前を向け」と許せる大人になっていきたいなと思わされた。

●その他のキャラ
友人出演の多さにびっくり......。
前作のユキノ先生もそうだったけど、彼らが困難を乗り越えても、また別の困難が違う場所で起きてるんだなあと思うとなんだかふしぎな気持ち。
瀧くんがずいぶん大人っぽくて、かっけえええとなってしまった。
三葉ちゃんがアクセサリー屋で働いてるのは意外とも思ったけど、アクセサリー(髪どめ)で縁を結んだことを思えば納得の就職なのやも......。
マンションのシーンで瀧くんのおばあちゃん(冨美さん)が手首に組紐らしきものをつけていて、地味におおっとなった。
そして、警官たちはぜったいアナザーストーリーあるんだろうな......小説版で補完したい。彼らも彼らの正義で動いてるのがあだとなって、帆高くんと対立してしまうのがちょっと切ないしだい。

●クライマックスについて
「3年間、雨が止むことはなかった」からの水浸しの東京のすがたは正直ぞっとした。
冨美さん、須賀さんの言葉がなかったら、帆高くん自体も葛藤しているし、バッドエンドとも受け取れてしまいそうだった。
それでも、大人たちの言葉を受けて、陽菜ちゃんの祈る姿を見つめ、自分たちのしたことを重みを再確認した上で、僕らは大丈夫だと踏み出す姿はハッピーエンドではないけど、良い方向に向かっていく予感を与えてくれて、すがすがしい気持ちにさせてくれる(同じ世界線で新作作るのは大変そうだけど)。

「帆高」の名前が少し疑問だったのだけど、水浸しの海のような町で一歩を踏み出していく姿はまさしく「帆を高くはって漕ぎ出る船」のようで、最後の最後に納得がいった。

まとまりがなくなってしまったけれど、少年少女が自分の命を懸命に使って生きていくさまを描いた、すがすがしくてエネルギッシュな作品。
子どもから大人まで、みんなが何かしらの限界、無力さを感じる時代だからこそ、「できることはまだあるよ」というメッセージが染み入るはず。
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