ゆうすけ

天気の子のゆうすけのネタバレレビュー・内容・結末

天気の子(2019年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

画面の魅力は素晴らしいのだが脚本が映画の魅力を大幅に減退させていると感じた。

特に気になったのが結末で、世界が壊れようとも少女を選ぶのだという心意気や良しとして、その壊れた世界が全く深刻に描かれていないので台無しである。ちょっと東京が浸水している程度でみんな普通に生活してるし、おばあちゃんに「江戸のころはこうだったのよ」みたいなエクスキューズを挟ませて主人公を免罪している。犠牲を払う部分がきちんと描けていないので、少女を選ぶことの尊さや覚悟が前面に出てこない。世界をぶっ壊しても愛する人を選ぶんだという話なのだから、本当にぶっ壊さないとお話として成立しないやろ論理的に考えて……。せっかく喘息の子とかがいたのだから、なんならあの子には長雨で死んでもらって、それでも少女を選ぶのかという話にすべきだった。それをやると夏休みアニメ映画として重すぎるのは判るが、あんな災害が続いたら観客の見えないところで大勢の人死にが出ているはずなのだ。平成30年7月豪雨では263人も死んでるんだぞ。TOKYOがああなったらホームレスから病人から十万オーダーで人死にが出ているはずで、その辺にドザエモンが浮いて蛆虫が大量発生、凄まじい異臭が街を覆っているだろう。この映画はそれを隠蔽し、ポップたりえない題材をポップに描こうとしたため、物語があるべき姿になっていないと感じた。

拳銃の使いかたもいい加減で、お話の都合のいいところで出てきて都合よく活躍する。マカロフの実銃をモデルガンだと思い込んでお守り代わりに持ち歩くのはありえないし(質感で判るし、百歩譲っても弾倉くらい見ないんかい)、目の前で拳銃をぶっ放した少年を少女が匿うのもよく判らない。中学生の少女が、街中で出会っただけの見ず知らずの拳銃男を家に匿いますか。しかも彼女には守るべき小学生の弟もいるのだ。チャカで脅されレイプされ弟もろとも殺されるとか、普通心配するだろう。登場人物が平気でこういう行動を取るため狂人にしか見えず、感情移入が全然できない。

ヒロインの家族もおかしくて、母親が死んだ途端に中学生と小学生の二人暮らしに突入というのもありえない。引き取る身寄りがひとりもいないのであれば学校から通報があって即児相だし、施設に入ったからと姉弟がバラバラになることもない。死亡届とか葬式とかお母さんの骨とかはどうしたんだ(食ったんか?) なぜこんな無茶な設定にしたかと言うと、違法に暮らしているため見つかったらやばいという設定のセットアップで、後半逃走する必要性を作るため、要するに三人で逃げる展開を作りたいだけなのだ。「こういう展開が作りたい」という願望に合わせて登場人物を動かすからこうなってしまうわけで、明確に脚本上の瑕疵であろう。主人公が島を出てきた理由もよく判らず、島で石持て追われていたりしたのかと思いきやエピローグでは普通に友人がいたりする。高校生がすべてを捨てて東京に家出をするまではいいとして、風俗で働いてまで逃亡生活を継続させようとするだろうか。あれ、実家で親を惨殺してきた少年の行動やぜ。

万事この調子で、お話の都合に登場人物を添わせていることで、登場人物がどんな人なのかが全然判らず、時間だけが経過していく。特にヒロインの人格が僕には最後までよく判らなかった。恋愛映画では致命的だと思う。

おかしな展開はまだあり、逮捕された少年が簡単に脱走できる池袋署の無能さもひどい。そもそも容疑者が留置場を移動する最中は手錠と腰縄をかけるし、拳銃所持は重罪で主人公は実弾を市街で発砲している上にポリスに銃口を向けているので、懲役3年は食らうだろう(下手をすれば殺人未遂なのでもっと行く)。最後の拳銃はどこから出てきたのか判らないし(警察に逮捕されてるのでパトカーに乗った時点で押収されてるはず)、あのオジサンや弟くんはなぜ主人公があそこにいると判ったのか。問答無用で昇天したはずの天気の子は、本当は自由意志で生存を選択できるの? なんで最後にヒロインは晴天を祈ってるの? 晴天を祈ったら昇天するんじゃないの? などなど要所要所のネジが緩くいちいち感情移入が阻害される。この辺を締め直し堅牢な脚本になったのなら、もっと素晴らしい場所にいけたのにと残念に思った。ただし美術は本当に素晴らしいので、それだけで見る価値はあるとは思う。
ゆうすけ

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