ツクヨミ

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネスのツクヨミのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

異次元なる編集によるクラクラ映像とサム・ライミやりたい放題な脚本による脅威の映画体験。
クリスティーンの結婚式に招かれたスティーブンは、謎生物シュマゴラスと異次元を駆ける少々アメリカ・チャベスと出会う…
サム・ライミ監督作品。MCUフェイズ4第5本目となった今作は、"マルチバース"という並行世界を渡り歩くという楽しすぎる異色ホラーアドベンチャーとして最高だった。
まずオープニング、新キャラのアメリカ・チャベスと別バースのストレンジが謎世界で鬼ごっこをしているシーンからスタート。もうこの時点で、謎のキラキラ世界を駆け回る感じがめちゃくちゃ楽しくてテンションがぶち上がった。全体を通して今作は、異次元を旅していくキャラクターたちと一緒に冒険するような感覚がずっと途切れない感じで、久々に純粋なワクワクドキドキ要素が満載だったと言えるだろう。
また今作は異次元なる映像を形作る編集が素晴らしかった。ライミ監督は今回本来2時間40分の映像を2時間5分に短縮したと言っており、確かにイースターエッグの多さがこれでもかと詰め込まれていて展開もめちゃくちゃ早くて付いていけないという意見もあるだろう。しかしこの短縮に関しては個人的に大賛成で、今作の場合早い展開は最大限無駄を削ぎ落とした結果であろうし濃縮還元編集がめちゃくちゃ機能していたと感じた。具体的な技法としては別バース同士のマッチカットの多様によるクロスカッティング、目に吸い込まれると別バースに行くカット割、一度のみだったがめちゃくちゃ映えるアイリスインアウトなど多岐にわたる。そしてこの編集による全編クラクラするような映像に痺れるばかりで、特にストレンジがアメリカ・チャベスと大量のマルチバース移動をするシーンは唖然とする映像に飲み込まれそうなほど没入できた。マーベル抜きに考えても一本の映像作品としてめちゃくちゃ至福の映画体験ができたのは間違いない。
そしてイースターエッグがこれでもかと詰め込まれライミ監督のやりたい放題感が強い脚本も面白かった。助けを求めた筈のワンダがヴィランになるという展開や、別バースでのイルミナティ騒動、そしてゾンビストレンジの大活躍によるラストのエモ散らかしシークエンスなどめちゃくちゃだと言われればそうだが、このテイストは最高にB級感が強くて好きだ。
また今作の裏テーマは各キャラクターの"辛い過去の昇華"であると感じた。ライミ監督はスパイダーマン3部作で恋愛を通して若者たちの内面を描いてきた過程があり、本作でもストレンジとクリスティーンの関係や"ワンダヴィジョン"騒動でのワンダの過去、アメリカ・チャベスの過去など各キャラクターの辛い過去に寄り添いラストで一つの区切りを付け、ドラマ面でも評価したい要素があった。ここまでエモい人間ドラマは現代的であるが、正直スパイダーマン3部作より成功している感が強くライミ監督の描写の成長も窺える。
そしてキャラクターとしてはイースターエッグの多様さもあり魅力的なシーンが沢山あった。イルミナティメンバーであるプロフェッサーXやリード・リチャーズの原作リスペクト感は素晴らしいし、キャプテンカーターやマリア・ランボー版キャプテンマーベルなど胸アツなマルチバースの恩恵は最高の一言。今作は本当に一見さんお断り感が強く、各MCU作品(ディズニー+含む)やアニメと原作コミックまで網羅していないとわからない箇所が多かった。その点に於いては本当に原作ファンを喜ばしにきていると思うが、現時点でMCUの敷居がどんどん上がってきている現実は否めない。
MCUとしても楽しいが一本の映画として本当に楽しくワクワクドキドキできる至極のアドベンチャー映画だった。また個人的にスタータイプのポータルを開けるアメリカ・チャベスが好きすぎ問題、MCUで現時点1番の推しキャラは彼女になりそうだ。
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