みゅうちょび

キストのみゅうちょびのレビュー・感想・評価

キスト(1996年製作の映画)
3.8
屍姦をテーマにしながらも、そこにあるのは死よりも生。こんなにも美しく屍姦を描いた作品が他にあるのだろうか…

主人公サンドラは幼い頃から小動物の死体に愛しさを覚えていた。その想いは成長とともに褪せることなく、解剖学を学び、斎場での仕事につく。ある日仕事で1人の青年の遺体を運ぶ途中、洗車している車の中で、彼女はその遺体の唇にそっと自分の唇を重ねる…

他の屍姦をテーマににした作品と大きく異なるのは、サンドラがそこに見ているのは、死への恐れや死体その物への欲求ではなく、生と死を繋ぐ肉体の持つ神々しいばかりのエネルギーなのです。わたしは、それを死を通して見る生ととらえました。

サンドラと恋人マットとの出逢いもまたユニークで、彼女はありのままの自分を受け止めて欲しいと思う余りに、ナンパしてきた彼にも「わたし、死体と寝るの」と告白します。もちろんマットは本来の意味を理解してはいませんが、そんな彼女の不思議な魅力に引き込まれすにはいられないのです。この2人の出逢いのやりとりは、映画史に残しても良いのではとさえ思います。

まるでごく普通の若者たちの恋愛を描くように、時に爽やかに、時に切なく残酷に描かれる2人の関係。

当然、それがいつまでも上手くゆくことはないのですが、どんな結末に至るのか…

この映画のサントラは素晴らしい完成度で、映画で挿入されるサンドラの語り部分も曲の合間に入れられ、サラ・マクラクランを始め当時のカナダで活躍していたアーティストの曲で綴られています。
サンドラとマットが初めての夜、マットの部屋でぎこちなく触れ合うシーンでかかる、Ginger のFar Outという曲とエンドクレジットでかかるサラ・マクラクランのFumbling Towards Ecstasyは今でも頻繁に聴いている大好きな曲です。
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