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アスのJIZEのレビュー・感想・評価

アス(2019年製作の映画)
3.8
1986年のカリフォルニア州サンタクルーズを舞台にジブンたちと瓜二つの姿をした集団に遭遇した一家に起こる惨劇を描いたスリラー映画‼︎初日に字幕で鑑賞。鑑賞回はレイトショーで観たからか、映画館の暗闇効果と夜間遊園地の真っ暗な背景が重なりウサギたちが複数生息するあっちサイドの無機質な世界へ吸い込まれた感覚となった。まず鬼才ジョーダン・ピール監督の前作『ゲット・アウト(2017年)』より攻撃的で、世界観内が異様かつ異質に構築されている。また"ドッペルゲンガーがもしジブンたち家族の前に姿を現し奇襲を仕掛けてきたら"という現実か虚構か揺さぶられるようなトリガー一発で賭けに出る既存設定はおもしろかった。端的に物凄く前半と後半で様々なジャンルが詰め込まれている。特にスリラーとヒューマンを盛り込む前半が秀逸。劇中でもワードとして登場する『ホーム・アローン(1990年)』内での作戦を、いままさに起こり得る世界観内で実行しようとする父親に苦笑して愛着をおぼえた。後半の幾何学的でアート方向にエスケープするオチ(複製)のまとめかたは気に食わなかったです。クローン人間と対峙する前半と根源を辿る後半では良かれ悪かれ異質なバランスで練り上げられている。単に"変な感覚"で既存映画の概念(ジンクス)を撃ち破ったという点では新鋭の映画として感心する部分がありました。もうちょい暴力的なシーンや全員は生き残れない現実味をデフォルメしていれば楽しめたかも。"ウサギの穴"の不思議の国のアリスを彷彿とさせるメタファーもレイヤーが張られて好き嫌い分かれる構造か。王道のスリラー映画のフォーマットを多用しているが本質的に社会性に営む方向へ着地させる監督の手腕は今回でもやはり健在でした。

→総評(過去の前兆が可視化する複製軍団の奇襲劇)。
総じて既存のホラー映画をアップデートさせる、という意味では製作した意義のある実験的な佳作に思う。使い古された既存のパターンや得体の知れない事象が日常に浸透する恐怖、それらを上手い具合にチューニングして現代的なフォーマットにうまく溶け込ませている。例えば事象そのものの無機質かつ虚無的な可動は『イット・フォローズ(2016年)』だし、正解にたどり着くうえでは世界地図に記された場所以外にもこの世には恐ろしい事実が隠されてる煙に巻いたような雰囲気は『アンダー・ザ・シルバーレイク(2018年)』を意識させるものだった。これらの断片的に切り取られた成分が見事に浸透してマッシュアップしたような可能性を感じさせる作品である。特に前半の夜間遊園地のくだりは、後半の展開に直結する伏線が記号的に散りばめられ暗喩やメタファーなど目を見開いて観ていた。残念だったのは、上述したがオチのまとめかたである。結末がアート方向に逃げたのは明白だが、サバイバル映画として最後まで娯楽路線を突っ切ってもらいたかった。複製人間サイドの頭脳や戦闘スペックが微妙に高すぎないのは良かったが。というようジョーダン・ピール監督の二作目の作品としては見応え豊富で食い入るように楽しめる映画だった。前半だけでもスリラー映画の楽しめる要素がテンコ盛りで高揚感を募らせる佳作だったのではないか。現在猛暑を乗り切る意味でも無表情で狂気化した赤服軍団が仕掛けるブッ飛んだ本作の監視をぜひお勧めします。
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