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アスのmariのレビュー・感想・評価

アス(2019年製作の映画)
4.0
「この世で最も恐ろしいモンスターは何か?」
という質問に対しジョーダン・ピールは、
「それは自分自身、つまりドッペルゲンガーだと思った」
と述べている。
ピールが7歳の頃、1986年のテレビ画面から本作は始まる。
そこに映っているのは「ハンズ・アクロス・アメリカ」という慈善イベントだ。
1986年5月25日、アメリカの西海岸から反対の東海岸、カリフォルニアからニューヨークまでの約6600キロを600万人以上の人々が15分間手を繋いだ。
アメリカ国内のホームレスや貧困層の救済のため、アメリカ人の連帯と寄付を求めた。
参加者には数多くの有名人が。
(詳しくは調べてみてください。)
だがそのシンボルマーク、赤いシルエットの人々が手をつないでいるマークは当時7歳のピールには恐ろしい印象を残したようだ。
主催者は1億ドルの寄付を期待していたが集まったのは目標の半分にも満たない3400万ドル。そのうち1900万ドルは経費として消え、この慈善イベントは失敗に終わった。
この頃からアメリカの貧富の差は広がっていったとピールは語る。

物語序盤の遊園地のシーン。
アデレードの父親がモグラ叩きをするシーンは、
「這い上がろうとしている貧困層を富裕層が叩き落とそうとする様子」
を表現。
また、アデレードが屋台において、11番のスリラーのTシャツを欲しがる。
この11番にも後々深い意味が。
このスリラーだが、マイケル・ジャクソンの代表曲だ。
そしてこのスリラーのMVでマイケルは赤い服装をしている。
これも物語のテザードの身にまとっていた服装に繋がる。

地下に閉じ込められていた人々は、「テザード(縛られた者たち)」と呼ばれ、縛りを断ち切る象徴としてのハサミを武器にする。
彼らが身を包んでいる真っ赤な服はアメリカの囚人服を連想させる。

次に、印象的なウサギについて。
ウサギは、あまりにありふれすぎた人間の様子を現していた。
檻=国
ウサギ=人間
といったところだろうか。
現代社会では溢れかえる移民問題が問題になっている。そこをピールはウサギに用いることによって上手く現した。

次に、本編にて度々出てくる「11:11」という数字。
これは旧約聖書に含まれるエレミヤ書というものに関連してくる。

エレミヤ書の11章11節とは、
「それゆえ主はこう言われる、見よ、わたしは災を彼らの上に下す。彼らはそれを免れることはできない。彼らがわたしを呼んでも、わたしは聞かない。」
といった内容だ。
そうは言われてもこれをすんなり理解できる人は少ないだろう。
とても簡単に言ってしまえば
破滅が訪れるよ〜、といった感じ。
テザードがやってきたのは午後11:11。
破滅が訪れた、ということを現したのだろう。
そしてこの11:11、線対称というところにもポイントが。
左があれば右がある。
上があれば下がある。どちらも切り離せないという感じで、光があれば陰があり、富裕層がいれば貧困層もいる、といった感じ。

アデレードが地下のトンネルへ向かうシーン。
エスカレーターが登場するが、あのエスカレーター、下へ向かうものしかない。
つまり、一度貧困層へ落ちてしまうと二度と上へは戻れないことを示している。

本編終盤の、アデレードが自分の正体に気づくシーン。
そう、わたしたち自身が既に怪物なのである。

最後に今作のタイトルとなっている、Usについて。
そのままの意味で解釈すると、「わたしたち」という意味だ。
だがこうもとれる、
United States
と。
アメリカだ。
本当に恐ろしいのは"わたしたち"なのか、"アメリカ"なのか。
ピールからの強いメッセージ、訴えを感じる。

ジョーダン・ピールの作品の魅力は、1回目を鑑賞し、解説・解釈を読んでから2回目を鑑賞すると、見え方が違うところにあると思う。

ぜひ、2回目を!
mari

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