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ワイルドツアーの白のレビュー・感想・評価

ワイルドツアー(2018年製作の映画)
4.5
私たちが恋をすることはDNAによって運命づけられている。そして植物のDNAを採取し、記録しようとワイルドツアーへ駈け出す彼ら彼女らもまた、その歩みを映し出すカメラによってささやかな恋の萌芽が眩しく切り取られる。
登場人物たちは皆iPhoneを携え、常々撮影行為を営む。それはカメラを対象物に向けるための距離を空間に生じさせることに等しい。そうして近すぎて分からなかったものが、距離の存在によってその解像度を増してゆく。距離を感じるからこそ、見慣れたはずの地元の野道で様々な表情を発見するし、曖昧に抱えていた感情の正体が愛であったと気づくこともある。
ありふれているはずの大地や空の起伏も、ただ並んで座る二人の人物も、もう戻ることのない時間や二度と共にすることのない人がいるという事実がその光景に刻み込まれるているだけで、それらを捉えた映像にはかけがえのなさのようなものが静かに焼き付いてくる。
登場人物の情調にみなぎった場所を視線で以って痛ましく放浪するだけでなく、青春という人生の一過性を感知すること。そうやって私たちは『ワイルドツアー』で露呈された「記録」を巡る生々しさを(或いは映画の考古学的な魔術を)、自らの現在の最中にまで置き去りにすることになる。
やがて幕が下り、場内が明転することで映画の虚構性を改めて意識するに至る厳粛な時間のうちに、自然に私たちへと導かれるこの想いの名前が、「恋」という一語を差し置いて一体何だと言うのだろうか。
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