クリーム

よこがおのクリームのレビュー・感想・評価

よこがお(2019年製作の映画)
3.8
人間は、誰しも加害者に追い込まれる事があるかも知れないと言う恐怖を描いています。珍しくもない内容だけど、善人である普通の人が追い込まれる姿を筒井真理子さんが熱演しているので、見応えがありました。ラストは「淵に立つ」とは違うタイプだけど、この映画の終わり方として良いと思いました。良かったです。
訪問看護師の市子は、看護に通っている大石家で歓迎されていた。大石家の長女·基子には、介護福祉士になる為の勉強を見てあげてもいた。ある日、基子の妹·サキが失踪する。1週間後にサキは無事に保護されるが、誘拐犯として逮捕されたのは意外な人物だった。この誘拐事件をきっかけに市子は理不尽な状況へと追い込まれていくのだった。



ネタバレ↓



サキを誘拐したのは、市子の甥っ子で、妹の子供だった。彼女には何の責任もないのに基子の嫉妬心で、事実が捻じ曲げられ世間に公表されてしまう。しかも確かに市子が言った事、やった事だった。『甥に性的虐待をしていた』と取られても仕方のない言われよう。知らない人が聞いたらそう思ってしまう様な言われ方。それによって、急に加害者に陥れられ、マスコミが騒ぎ、職場もマンションも追い出され、子持ちの婚約者にも捨てられる(これは、その程度の愛だったんだろうし、アイツは、あの子の面倒を見て欲しかっただけなんじゃ?と思った)。
そして、市子はリサと名乗り基子の彼氏を寝とり基子へのささやかな復讐をしようとします。ご丁寧に自分の裸体と彼の写真を基子に送信しました。が、何とすでに別れていた。しかも別れた理由は、基子が市子を好きになっていたからだった。もう笑うしかない展開で、笑い方は狂気でした(この時の裸体がそんなに綺麗じゃなくて、良く脱いだなと…。女優魂を感じました)。
ラストに市子は、基子と偶然出会う。横断歩道で停止していると目の前に基子が介護の仕事をしながら通る。何かを拾う基子を引きそうな演出をする。が、引かずに通り過ぎてから、長いクラクションを鳴らす(これは市子の叫びなんだろう)。そして、視界がボヤけ、走行しながらスピードがどんどん上がりプツッと終わる。素晴らしく好みの終わり方でした。ハネケのやり口。
市子は、善人なので観ていて辛かったのですが、ラストは過去には囚われず生きて行く、過去との決別に見えました。この明るい未来が見える感じが、善人市子の辛い経験には丁度良い終わり方で良かったです。
突然、加害者にされてしまう。人間、人から誤解される様な事はしていると思うし、何気なく話してしまう事だってある。それを信じていた人に陥れられる恐怖、傷口を広げるマスコミや回りの人達。中々の恐怖でした。面白かったです。ただ、基子にはもう少し灸を据えて欲しかったが…。せいぜい、十字架を背負って生きて欲しいですね。

※こしあんさん、面白かったです。ありがとうございました。
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