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よこがおのshironのレビュー・感想・評価

よこがお(2019年製作の映画)
5.0
怒涛のラストシーンに魂がえぐられる。
主人公の心の叫びが聞こえるようで、彼女の中に渦巻く複雑な感情に、自分自身が飲み込まれてしまいそうな恐怖を感じました。

市子のエピソードとリサのエピソードが交錯して描かれるので、心理サスペンスとしてグイグイ引き込まれますが、人間という厄介な動物の心の軌跡を追うことで、気づくと、今まで全く知らなかった感情に辿り着いていました。

『万引き家族』の名シーンに、安藤サクラの泣きの芝居があると思いますが、
本作では、筒井真理子の笑いの芝居が素晴らしい。
これだけでも見る価値アリです!

空気ごと切り取ったような場面が大好きなので、
一つのシーンの中で、空気の変わる瞬間が見られるところも嬉しい。


-----ネタバレなしだと思っていますが、ここからは鑑賞後に読んでいただいた方が良いかもしれません----

“可愛さ余って憎さ百倍”と言うとチープに聞こえるかもしれませんが、
愛や信頼があればあるほど、裏切られたダメージは大きい。
でも、復讐心に駆り立てられているうちは、結局相手から逃れられない訳で…
そう思うと、加害者の本当の罪は、被害者に傷を負わせるだけでなく、その後もずっと、その存在事態が被害者を支配し続けるところにあるのかもしれない。
ではいったい、どちらが被害者で、どちらが加害者なのか?
もちろん主人公の市子は被害者なのだけれども。
でも、無意識に不器用な魂をひどく傷つけた事も確か。
そして、一人の相手を一心に思い続けるということに関して言えば、実は愛も憎しみも同じなのではないかと思えました。
どうしても無視出来ない強い気持ちに支配され、コントロール出来ずに自分を見失ってしまう。
やはり愛と憎しみは紙一重な気がしてきます。

モラルの外側で生きている動物たちは、大声で吠えて、羞恥心なく発情する。
人間だって動物なのに、秩序を守る為に無理矢理野生の部分を押し込めている。
奔放な動物たちの姿から、自分の中の動物的な欲求…モラルに押さえつけられた本当の自分が解放されて、ふと、普段なら話さないような会話が出てきたのだとしたら…。取り繕っても、そこには真実が隠れている。
そして、犬のように大声で吠える事が出来ない人々は、自分では消化しきれない感情を抱えて結局は暴走してしまう。
人間たちは秩序と引き換えに、厄介な生き物になってしまったのかもしれない。
“交差点を渡る前”には二度と戻れない二人だけれども、同じ長さの時間を、お互い一途に思い続けていた。
怒涛のラストは必見です!
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