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ナショナル・シアター・ライヴ 2019 リア王のaのレビュー・感想・評価

3.5
イアン・マッケランとグロスター卿の演技が壮絶だった。
ストーリーや演出は矛盾を感じる点が多かったけど、この2人の威力で最後まで引っ張られていってる舞台。
リア王観たのは初めてだけど、グロテスクな物語だ…

冒頭の衣装やセットがすごく好みだったが、だんだんグロテスクになったり現代になったりして若干統一性には欠けていた。
でも今思ったけど、最初は中世っぽい衣装やセットだったのが、近代、現代(点滴のある病院や迷彩柄の軍服)と移行しているのは、この舞台の世界観が古いものから新しいものへと移行していることを示しているのかも。
人工的な管に繋がれて「ここはどこだ?」と戸惑う病院で目覚めたときのリアの姿は、医療技術や科学技術の発展についていけず置いてきぼりになってしまった老人のような心細さを感じさせる。

女性陣の演技については、長女が1番良かった。何かを耐えに耐えている表情がたまらん。子供の頃から長女としていろいろ頑張ってきたのに認めてもらえず、何もしてない三女が可愛がられて悔しいとか。ずっと我慢して時を待ってたのに、やっぱり自分の思い通りにはさせてもらえない不自由さへの憤りとか。土地も娘にやると言いながら、持ち主は夫みたいだし、その理不尽さへの苛立ちとか。きっと結婚も父親が決めた望まない相手とさせられたんだろうなとか。父親に純粋な愛情を注げない理由がいくらでも浮かんでくるような演技だった。
次女はインパクト強かったが、キャラクターとして猟奇的すぎてヤバい。ひどい娘どころじゃない、なぜかはよくわからないが彼女もめちゃくちゃ狂ってる。この人はただ欲望に忠実なだけって感じだった。
末娘はシラノでも観た方だけど、姉たちに負けず劣らずプライドが高くて打算的な感じがした。嘘をつかないことで「高潔な私」を気取ってるけど、姉たちと対等に貶し合ってるし、別に心優しいわけじゃないよね?と思ってしまう。軍服着て嫁ぎ先の国の軍を率いて攻めてくるとかも、超野心的では。もはや「私は正直さゆえに父に勘当されました」というのもその場にいたフランス王に拾ってもらうことを計算した上での行いだった説もある。フランス王も優しいというよりは弱者に手を差し伸べる自分に酔ってる感があったし、完全な善人はいない苦々しい舞台という印象だったな。グロスター卿も後半は痛々しいけど前半のエドモンドの扱いひどかったし。
パンフレットにもあったけど、もともとの戯曲ではいかにも「女性らしい」、慎ましく穏やかで優しいイメージで語られていそうだけど、この舞台ではそういう雰囲気ではないからところどころ台詞と噛み合わないのはわかる。

ケント伯は女性にしたからこそ余計キャラに古さを感じてしまったかもしれない。男性版知らないけど。特に最後、リアの後を追って自分も死ぬと宣言するのがロミオとジュリエットのようで古くさかった。残ったの若い男2人だし、え、現代版演出で男2人に今後の世の中の未来を任せてしまっていいの?となる。そこで自ら表舞台から身を引くなら、わざわざ女性にした意味は何?と思ってしまった。
グロスター卿の嫡男はめちゃくちゃいい人だけど、ゴネリルの夫は最初からゴネリルを憎んでる感じが怖くて嫌。

あとつじつまでいうと、エドガー2人も人殺してたけど、最初のナイフの持ち方からして絶対弱いから普通なら負けるはずだよね。
雨のシーンの途中で少し眠ってしまったが、見応えがあって、観た後の疲労感が辛いけど心地よかった。
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