豚肉丸

The Mirror(英題)の豚肉丸のレビュー・感想・評価

The Mirror(英題)(1997年製作の映画)
4.5
学校帰りに迎えに来てくれるはずの母親が居ないことに気づいた少女が、母を探して街中を駆け巡るお話......しかし途中で少女を演じている主演の子が撮影を放棄して逃げ出してしまう。

『友だちのうちはどこ?』のように街中を駆け回って人々に道を尋ねる系の映画にメタフィクションをぶち込んでくる構成が上手すぎる。映画の最中突然「もうこれ以上演技したくない!」と主演の子がバスから脱走し、映画はフィクションからドキュメンタリーに切り替わる。しかし映画のジャンルは切り替わっても物語の「街中を駆け巡って家に帰る」という本筋自体は変わっておらず、映画の物語が現実と重なり合って現実とフィクションを曖昧にさせられて面白い。フィクションパートの目的は映画の途中で文字通り放棄されてしまうも、ドキュメンタリーパートの「家に帰る」目的を達成しようとしたら自然とフィクションパートの目的も達成してしまうという現実がフィクションに食い込まれる二重構造。

またメタフィクションを抜きにしても『友だちのうちはどこ?』系の映画として見事で、車やバスが行き交う街中を幼い少女が駆け巡り、目的地もわからないままバスに揺られて移動する際の子供の不安が等身大に描写されていて面白い。そしてイランの女性差別問題にも切り込んでおり、女性の主体性についての問題も主人公が耳にした会話や日常に潜む文化から明らかにしているのも凄い。そう考えると主人公の少女は主体性を持った存在として、イラン文化へのカウンターという形で効いているのか。

パナヒ監督っててっきりイラン政府から映画制作の弾圧を受けてからメタフィクションに移行したのかと思ってたけどこの頃からメタフィクションを取り入れて映画制作していたのか...でも確かにキアロスタミ監督の弟子だし納得...
豚肉丸

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