キットカットガール

生理ちゃんのキットカットガールのネタバレレビュー・内容・結末

生理ちゃん(2019年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

 本作において生理は「苦痛」「日常生活の妨げになるもの」として描かれている。現象と症状を「生理ちゃん」というキャラクターに置き換える事で、その存在と重症度は可視化され、生理が個々人にどう負担をかけているのか一目でわかる演出となっている。映画冒頭より、主人公青子の元にやって来た「生理ちゃん」は、会社の暗い廊下からホラー映画さながらの登場を果たし、出現して早々彼女の下腹部をパンチする(生理痛)。その後も巨大な注射器を取り出したり(貧血症状)、青子の腹部に馬乗りになったり、自身よりも小さな彼女におんぶしてもらうなど、「生理ちゃん」は常時物理的な負担をかけ続ける(生理の重さ)。同じく主人公と位置づけられる山本さんの場合、青子のように常におんぶを要求している訳ではないものの、机の上にある書類を落として散らかし(生理時の混沌とした頭の中や苛立ち)、ゲーム中の彼女の気を散らしていく(集中力の低下)。その他の女性キャラクターにも当てはまる点として、「生理ちゃん」は玄関にやって来て目撃される度にため息をつかれるが、初日よりも最終日の方が人物と穏やかな関係を構築し、役目を終えると玄関から帰っていく。生理中は歩くだけでも一苦労し、食事中でも存在を気にせずにはいられないくらい厄介と受け取れるシーンが数多くありながらも、主人公二人と各々の「生理ちゃん」との会話シーン(これは映画的表現であるが故に、実際には自問自答と解釈可能)に着目すると、月経時とは自分自身(心と体の両方)と真剣に向き合う期間であるといったメッセージも窺える。
 また、生理がもたらす身体的苦痛はもとよりそれに伴う二次被害の大きさも作品では描かれている。「生理はコントロールできない」という世界観で物語は展開していく為、「頑張る女性」の足手纏いとされている。運動靴でオフィスを走り、周囲から頼りにされる、所謂「デキる女」として描かれる青子。そんな彼女の仕事における生産性を低下させる要因が月経であり、彼女も周囲もそれとなくその事実に気付いている。編集長は「女の子は大変だな」と嫌味を吐きながら青子の仕事を男性社員に回す。このシーンで青子の「生理ちゃん」は言い放つ「本当に大変なのは、生理を理由にできないという事」こそが「頑張る女性」たちの主張/世の中の声の代弁と思われる。そして、男女問わず生理は自己責任という共通の認識を持っているのも分かる。疾走感のあるロック調のテーマ曲が採用されたのも、生理中の女性は常に戦っている、戦士のようであると訴えているようだ。
 一方で、本作では生理を「女性らしさ」の一部として捉えていると考えられるシーンや登場人物の台詞が数多くある。月経が定期的に来るというのは、女性ホルモンが正常に働き、妊娠・出産の準備を整えていると医学的に言われているように、自身の性を自覚する一種のアイテムのような役割も担っていると本作においては言えそうだ。「どうせ私なんか一生このままずっと一人なんだから、生理なんて来なくていい」という失恋直後の山本さんの発言から、恋愛(それに伴うとされている妊娠・出産)をしない女性には生理は不必要で、女性としての役割を果たせない自分は生物学的に女性である必要はないと開き直りながらも生理に女性のアイデンティティーを見出している。異性を意識する事で自身の性を意識した彼女が「生理ちゃん」を探す姿は「女性らしさ」を求めているとも取れる。