CHEBUNBUN

シノニムズのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

シノニムズ(2019年製作の映画)
3.0
【A son corps défendant(肉体の反撥)】
ベルリン国際映画祭で金熊賞を獲り、カイエ・デュ・シネマが満点をつけた作品がフランス映画祭で上映!友人たちと観てきました。

本作は、イスラエルからフランスに移住したナダヴ・ラピドの自伝的作品であり、随所に彼のエピソードや彼が家族や友人から聞いた話が挿入されている。

結論から言うと面白くはない。連日の疲れもあり割と眠かったのですが、祖国でのアイデンティティを殺すとはどういうことかを描いた本作の視点は非常に貴重だ。

主人公のヨアヴはイスラエルからフランスに移る。しかし、初日にして災難が降りかかる。シャワーを浴びている隙に何者かが、部屋に侵入し持ち物洗いざらい盗られてしまう。部屋は寒く家には何もない彼は助けを住人に求めるが誰も助けてくれない。そしてバスルームで凍えながら一夜を過ごす。イスラエル人としての自己を殺す通過儀礼的描写から始まるのです。

幸運にも絵を描いたような、外国人から観て裕福そうなフランス人カップルに救われたヨアヴ。カップルは、服やスマホ、金を分け与える。高級な服に着せられ、ハリボテチンケに見えるヨアヴは取り敢えずフランス人として生まれ変わります。

彼は、イスラエル人にはならないと、訪ねてくるイスラエル人とは距離を置き、いち早くフランス人になろうと貪欲になる。

彼は街を歩くのだが、départ, redépart courir, sourireと似た響きの言葉を反芻していく。そして、決してヘブライ語を使おうとしないのだ。

こうして、フランス人になりきろう、イスラエルのアイデンティティを捨てようとスノッブの極みを魅せていく。そして、フランスへの希望を見出していくのだが、段々と綻び、矛盾に気づき苦しむようになる。

AVの仕事をした際にカメラマンから、ヘブライ語で喘いで欲しいと言われ逆らえずにアナルに指を入れながらヘブライ語で官能的な言葉を叫び傷つくのだ。

現地人から見た際になかなか理解しがたい外国人の心理に深く深く迫る。この手の映画は『ブルックリン』のように2つの故郷それぞれにアイデンティティを確立されるところに着地点を置きがちだが、故郷を棄てることで人はどうなるのか?開かない扉に対して監督が体当たりした痕跡から我々は、その心理的変化に気づかされる作品でした。

P.S.親友がフランス人の友人連れて来て、共に観たのだが、感想戦で「あなたはフランスにある程度住んでたのだから彼の気持ちわかるんじゃない?」と聞かれ、上手く答えられなかったのが悔しかった。ポンコツスピーカーの辛いところ。ヨアヴの気持ちはよく分かるし李良枝の『由熙』好きには刺さる映画だったんですけどね。
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