命綱無し。基本装備は滑り止めパウダーのみで975メートルの絶壁に挑むフリーソロ・クライマー、アレックス・オノルドのドキュメンタリー。
とにかくアレックス・オノルドの人物像が圧倒的で魅力されてしまう。
スクリーンに初登場した時にまず印象的なのは、その少年のような真っ直ぐで煌めいた瞳。
命知らずでクレイジーなエクストリームアスリートというよりは、おそろしく謙虚で知的、穏やかな青年というキャラクター。
まるで侍の様な求道者。それでいて、独特なユーモアも備えている。
だからこそ、そんな彼が命を賭ける様なチャレンジに挑む姿が驚異だし、観てるこちらも死ぬほど緊張してしまう。
アレックスを複雑な心境で支える恋人や、友人の死の瞬間を捉えるかもしれないプレッシャーと戦う撮影クルーを交えたドラマも見応えがあり、ラスト20分のクライミングシーンは仮に結果を知っていたとしても、心穏やかに観ることは難しい。
そして、親しい人たちにすらどこか壁を作るようなアレックスが、「言えなかった言葉」をこぼす終幕がとても感動的だ。
素晴らしい「山」映画が単にクライミングに関しての映画ではなく、「人生」や「人間」のドラマで常にある通り、本作もひとりのクライマーの偉業と共に、ひとりの青年のリアルな物語としても、圧倒的に素晴らしい。
クライミングシーンは大画面でこそ映える。是非、劇場で。