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トールキン 旅のはじまりのスクラのレビュー・感想・評価

トールキン 旅のはじまり(2019年製作の映画)
3.5
≪いかにしてファンタジー作家が誕生したのか。誕生の礎となる半生に着目した作品≫

あまりにも有名な『指輪物語』、『ホビットの冒険』。でも、その作者トールキンの半生については、全く知りませんでした。

『トールキン 旅の始まり』を観ることで、こんな半生を歩んだトールキンだからこそあのようなファンタジー作品を産みだせたのだと納得できました。

さて、J.R.R.トールキンは「ファンタジー作家」としては、
あまりにも有名な一方、オックスフォード大学の”philologist”の研究者としては殆ど知られていません。
(Philologistは、文献学者・言語学者です。)
でも、実はこの研究者になってしまうほどの言語への情熱こそが、かの有名なファンタジー作家・トールキン誕生の基礎の1つだったということがこの映画によって詳らかになりました。

作中でトールキンがエディスと一緒に言語と民族の関係性について、語り合う場面があります。

ここはフィンランド人監督らしい視点だと感じました。

フィンランドは母国語の使用を抑圧された歴史があり、今でもフィンランド語に民族としての強いアイデンティティを感じています。言語って単なるコミュニケーションツールではないんですよ。
東大の石井名誉教授の言葉を借りると
「言語は単なるコミュニケーションツールではなく、本質的に文化的な産物」
つまり、文化があるところに言語が産まれるわけで、じゃぁ文化ってどこから産まれるかと言ったら、民族ですよね。だから、言語というのはその民族にとっての大切なものになります。

言語が民族にとってどれほど大切なものかを理解しているフィンランド人だからこそ、 新たな言語を産み出し、ホビット族やエルフ族が存在する世界を創り上げたトールキンの半生を映画として描くことができたのではないでしょうか。

そして、今回の映画を語る上でかかせないのが、"Change the world by the power of the arts「芸術の力で世界を変えるんだ」”と後の大親友となる3名と作った秘密クラブT.C.B.Sです。親友はそれぞれ詩・音楽・美術、そしてトールキンは物語を。
彼らとの交流の日々を観た後の映画のラストは涙無しには観ることができませんでした。

親友との日々、言語への情熱、そしてエディスへの愛をキーに112分の上映時間の中にトールキンの半生を余すことなく描いた名作だと思います。
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