しべお

ラストナイト・イン・ソーホーのしべおのレビュー・感想・評価

4.5
ずっと観たくて、終映ギリギリでやっと観ることが出来た。ここ5, 6年でも出色の作品だった。もっと早く観ておけば良かった。素晴らしかった。ストーリーも文句無しに楽しめるし、何より主人公の女の子2人の魅力がハンパない。

まず、作品全体を彩るスウィンギング・ロンドンへの尽きせぬ憧憬。もちろん1965年は生まれる前だし、そもそも当時のロンドンなんて実際に経験できるものではないから、当時の映画や音楽でその空気を追体験し、想像するしかないんだけれど、本作ではそうした当時の空気感がびっくりするほど再現されていると思う(当時を知るイギリス人からすれば、しょせん若い人間が造るまがい物に感じるのかも知れないが)。これは日本と違い、基本的に建物の外見がほぼ変化しないロンドンならではなんだろうが、それでも主人公が細い裏道を抜けるとそこは…のシーンでは鳥肌が立ち、テンションがMAXに上がりまくった。

監督のこだわりの古い映画へのオマージュがたくさん組み込まれているようだが(町山智浩さんの解説に詳しい)、自分は’60年代の英国映画はあまり観たことがなくわからなくて、それより「シックス・センス」や「ゴースト」に通じるものを感じた。

音楽に関して言えば、冒頭のピーター&ゴードンの『愛なき世界』に始まり、終始シラ・ブラックやキンクスなどが流れまくるので、当時の洋楽が好きな人には堪らず、タイムスリップの醍醐味に没入した。

そして何よりも本作の魅力は正反対の趣がする主人公2人に尽きる。田舎育ちのお上りさんのエロイーズ役、トーマシン・マッケンジー(彼女のアクセントやしゃべり方と声。ただしロンドンで髪型や髪の色をサンディに寄せてすっかり垢抜けてしまう前)と、滲み出る小悪魔感、自分の才能を理解して、表向きには怖いものなど何もないかのように、ひたすら成功への野心に満ち溢れているサンディ役、アニャ・テイラー=ジョイ(どストライクの60年代ファッション、ブリジット・バルドーのようなプロンドのもっこりヘア)のキュートさには悶絶しっぱなしで、終始キュン死寸前だった。2人それぞれの魅力から一瞬たりとも目が離せない。

しかし本作の本当のテーマはノスタルジーだけではきっとない。エロイーズはいわゆる「アレが見えちゃう」特殊能力者で、スリリングでオカルティックな展開の一方で、夢の実現に向かい胸を躍らせるサンディを、汚ならしい男社会の現実が無慈悲に蝕んでいくさまを、現代のエロイーズを通して寄り添い、ひいてはエロイーズの成長にも優しく寄り添い、そして遠くから応援する。そんな前向きなテーマを感じて、見終わった後に不思議な爽快感に包まれた。

最後に、若い女の子が好きな、スケベで汚ならしい中年オヤジといえば(自分もご多分に漏れずだが)、日本の右に出るものはないと思っていたけど、本作に出てくる、洗練された英国紳士達も負けないくらいスケベで汚ならしかったね(笑)。
しべお

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