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モービウスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

モービウス(2022年製作の映画)
3.7
 今やアメコミ映画はヒーローにせよ、ヴィランにせよ抱えきれないような深い哀しみを背負うが今作も例外ではない。血液の難病に侵された天才医師マイケル・モービウス(ジャレッド・レト)はこの病気で苦しむ人間たちを治癒しようと自らを使った人体実験に挑む。モービウスには幼い頃、実の兄弟のように育った親友のマイロ(マット・スミス)がいて、今もまともに歩くことすらままならないのだ。モービウスがそこで活路を見出すのがコウモリの血清を投与する荒療治だった。アメコミ映画とコウモリの関係性で言えば、ライバルのDCの『バットマン』が真っ先に挙げられるが、『スーサイド・スクワッド』でジョーカーを演じたジャレッド・レトが今作ではコウモリの力に頼り、超人的な力を身に付けようとするのだ。自身を用いた人体実験の様子はデヴィッド・クローネンバーグの『ザ・フライ』そのものだ。マウスで成功したからと言って人間にも転移出来ると考えるのは科学者の早計だが、毒を食らわば皿までと言わんばかりに男はコウモリのDNAと共に起死回生の運命を受け入れるのだ。

 人間と動物との融合には当然、メリットもあれば数えきれないデメリットもある。『ザ・フライ』では1匹のハエが転送ポッドに入り込んだためにその後、とてつもない苦しみが主人公を襲ったが、今作ではそのデメリットを「強烈な血の渇き」に強引に集約することで、ホラー的な要素を持った作品に仕上げている。血糖値が下がることで前後不覚に陥るモービウスはそれゆえ、人を殺めたという自覚はないがある種の予感はある。それでも科学者として人々を苦しみから救いたいという強い職業意識との板挟みに苦しむのだ。モービウスの意識は人間と獣の間で葛藤を繰り返すのだが、それなら物語を進めるのは第三者だと言わんばかりに「ある人物」が振り切れた行動を開始するのだが、この第三者の変節が丁寧に描かれていないためにその後の物語になかなか没入出来ない。近年のアメコミ映画にしては例外的な104分という時間は、MCUとは別個のスパイダーマンの「撒き餌」としては十分なのかもしれない。『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』は97分だったからそれよりは長い。あっと驚くあの人の登場もあり、スパイダーマン包囲網としては十分といった判断なのかもしれない。
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