ふわもこベビーポンチョ

主戦場のふわもこベビーポンチョのレビュー・感想・評価

主戦場(2018年製作の映画)
4.1
慰安婦問題に関する中立的なドキュメンタリー、というにはいささか韓国寄りの内容。右派のオピニオンリーダーとしてあの差別主義者(としての面を強調された人物)ばかりをピックアップしたのは適切だったのか疑問が残るし、随所であえて「否定派」と「修正主義者」を同定していたのはフェアでない印象を受けた。とはいっても双方の主張の正当性は根拠を合わせて示されていたのだし、問題に対する啓発として十分機能するに足る内容だったと言えるだろう。
ある巨大な暴力に対するレジリエンスの旗印として新しい言葉を生産していくことは重要だが、多くの革命運動においてそうであったように、それは事実より理想に強く依ったキッチュなスローガンになってしまう可能性がある。「性奴隷」か「売春婦」か。その言葉ひとつで印象は大きく変わるはずなのに、却ってそこに希望的な予測を組み込もうとする人が多かった。とりわけ慎重になるべき点でわざわざ事実に基づかない曖昧な意見を加えようとする態度は卑怯だ。これは特に某議員の発言の中に顕著に見られたものの、真相をなおざりにしたまま印象を体よくコントロールすることで結論を出そうとする意図は双方にあったように思えた。
もともと私自身慰安婦の存在を否定する立場にはないのだが、だからこそ今作の内容は慎重に受け止めていかなければならないものだろう。エコーチェンバーに呑まれて自分の立場に確信を一方的に深めていくのよりも、常に自分の主張と相対する意見の方をより吟味するべきだ。否定派は本当にここに出てきたようなセクシストばかりなのか?セカンドレイプという言葉を必要以上に使ってはいないか?自分のイデオロギーに対してはその明確さの分だけ常に懐疑的な視点を持っておきたい。それを踏まえても、総じて見る価値のある作品だったと思う。