緑

いつくしみふかきの緑のネタバレレビュー・内容・結末

いつくしみふかき(2019年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

高評価レビューはサクラじゃね? 疑惑に
逆に興味をそそられて鑑賞。
これを書いている現時点で4.4。
さすがに高すぎると思うが、
私は結構おもしろかった。

進一の周りの大人が全員クズ。
父親は言わずもがな、
進一を甘やかすだけ甘やかしておきながら
空き巣疑いにはかばうことなく家を追い出す母親、
姉旦那への積年の恨みを進一にぶつけ放題の叔父。
あらぬ疑いで村を追われた進一に
「誰も悪くない」と言う牧師。
悪いのは村人連中だろが。

渡辺いっけいの「含まない表情」がいい。
せこい悪巧みをしているときなんかに
ちょいちょいアップで抜かれる。
どのタイミングでもよからぬことを考えているのか、
そうではないのか判然としない。
ここ、思わせぶりな表情をしてしまう役者/
思わせぶりな表情をさせてしまう演出が多い印象で、
役者のアイデアなのか監督の指示なのか、
渡辺の表情はいつも新鮮だった。
マルチーズしょちょうとは思えない。

なんでこんなクズに女ができるのかが
一目瞭然なシーンもあった。
渡辺が覆いかぶさってゆっくり深く
ストロークしていることが伺えるシーン。
ガツガツした動きではなく丁寧でねちっこそう(褒めてる)。
体で女を繋ぎ止める男だととよくわかる。
進一母と呑み屋でスカウトしたネーチャンが
ともに細身で黒髪ストレートで、
こういうのが好みのタイプなんだな、とも。

遠山も村にいたときや教会にいたときのふて腐れた態度から
父親にちょっと心を開いた並んでシーツを畳むシーン、
会社でのあまり仕事はできないけど
それなりにかわいがられる後輩ポジションでありつつも
実家に戻ったときの母親とのハグとひとりで座る縁側での落差など、
心情変化がさりげなくわかる芝居をしてくれていた。

開始早々にテレビで人形劇&賛美歌でタイトル回収。
さりげなさゼロ。
ラストで進一がバスを止めて降りるときに
「ここからは自分で歩きます(歩いていきます、だったかも)」と
告げるのはベタすぎる。
個人的には棺桶風呂シーンで終了のほうがよかったように思う。
進一、母、叔父、祖父母で食卓を囲むシーンでは
陰鬱な雰囲気を出したいという意図を
照明に頼りすぎていていくらなんでも不自然が過ぎる。
劇判が説明的過ぎる。
役者が下手なのか撮影が下手なのか、
暴力シーンで当てていないことが丸わかり。

時間経過がよくわからない。
進一がやってきて牧師が説教したのは翌日?
だとしたら牧師のクズさが増す。
進一が教会を出て戻ってくるまでどのくらい?
進一だけで、また父子ともどもで
教会で世話になったのはどのくらい?
父親が手下連中と別れて再会するまではどのくらい?
再会から射殺まではどのくらい?
この映画は時間の長さが物語の深さに直結するので
ちゃんとわかるようにしてほしかった。

映画としての粗をが役者たちの熱演に
だいぶカバーされている印象。
とはいえ、ストーリーそのものはおもしろかったり、
消防団が松明を持って山狩りするシーンや
呑み屋に行った前後などの夜の撮り方はよかったり、
たびたび出てくる渡辺のアイアンクローは
犯罪だけでなく攻撃も省エネでせこさが見えたして
人物造形には長けていたりといいところも多数。
出産時の母親の口内アップ、棺桶風呂など
印象に残る画も多かった。
父親の葬儀で進一が「父」と口にしたところでは泣いてしまった。

渡辺がなぜ手下の呼び出しに応じたのかは疑問。
この甘さが息子にも受け継がれたのか。
息子が父親が口走った「一緒に不動産屋でも」に縋ったのは、
元手どうすんの? とか、大金動かす仕事をこいつと!? とか
第三者視点で思うことは多々あれども、
世間知らずだしなぁとか、
ともに過ごす時間が短すぎて父親にどっか希望を残してんだなとかで、
甘い/青いのも納得はできたのだけども。

終映後、外に出たら渡辺いっけいと
その手下ズがお見送りしてくれた。
緑