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クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険のNp2のレビュー・感想・評価

3.6
ヘンダーランドにおいて、何が「ヘン」なのだろうか?

本作では、序盤から伝統的なジェンダーロールを強調したシーンが目立つ。風間くんの「男はお金を稼がないとね」という発言、ひろしとみさえの関係、セクシーなファッションを楽しむ松坂先生と彼女の過剰なグラマラスを批判する吉永先生など、この春日部という街に蔓延ったステレオタイプ的なジェンダー観を存分に観測できる。この有様を象徴するセリフとして、園長が「大人は檻の中ですか」とボヤいている。このボヤきは吉永先生の合いの手によってジョークへと昇華されているが、暗に「大人はジェンダーロールにしばりつけられている」と第四の壁を意識した皮肉だったのではなかろうか。

一方のヘンダーランドにおいては、ジェンダーが多様化しているようだ。園内の汽車からキャラクターたちを発見した風間くんは「ヘンダーくん洗濯物干してる!ヘンナちゃんお料理してる!」と歓声を上げる。元来「女の仕事」として考えられてきた家事に分類される洗濯物干しを、ヘンダーくん、すなわち男性が担当しているようだ。また、女性幹部であるチョキリーヌの存在、さらにそのボスである「オカマ魔女」など、自らの性を自分自身で規定する者たちの活躍がみられる。ス・ノーマンも今後の教育を語るに際して「個性を尊重する」と述べたり、野原家で家事を手伝ったりと、典型的なジェンダー観をすでに捨て去っているようだ。

ヘンダーランドと外の世界の異なる部分といえば、その世界の有するジェンダー観だ。ヘンダーランドはステレオタイプに縛られた世界を批判し、多様性を尊重する自国を誇る意味で、皮肉を込めて「ヘン」を自称しているのではないだろうか。

冒頭、マカオとジョマは以下のように語っている。
「かっこいい王子様が可愛いお姫様を助けるなんて話は」
「もう、飽き飽きよね」
二人が世界征服のような企みを実行していた理由は明らかにされていない。しかし二人の言動から推察するに、マカオとジョマが実現したかったのはジェンダー平等、ないしは「だからオカマは嫌いなんだ」などという暴言を決して許さないような、すべてのひとが自由に自分のジェンダーを選べる世界だったのではないだろうか。
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