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ミッドサマーのりのレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
4.4
単純に言っちゃえば、北欧のコミューンに赴き、その文化や風習に触れる話。
本作は、俺らの倫理観に揺さぶりをかける映画。俺らの、と括ったが、厳密に言えば西洋式の倫理観のことを指す。紛れもなく、日本の倫理観は西洋のそれに端を発する。というのも、近代化する際に、西洋式のものを導入したからである。技術や外国人指導員だけでなく、価値観や道徳観、そして倫理観も導入された。例えば、人の命は大事だよっていう思想。それ以降、公には、姥捨や間引きはタブー化された。
このように日本の倫理観は西洋のそれに影響を受けている。本作のコミューンに赴いた青年たちは、紛れもなく西洋的倫理観の持ち主である。だから、ホルガの倫理観とは相容れない。むしろ、嫌悪感や吐き気を催すほど、反人道的で野蛮なものに見える。だが、ちょっと待ってほしい。彼らは大学院生である。つまり、サイードの『オリエンタリズム』やレヴィ・ストロースの『野生の思考』を既習済みに違いない。したがって、文化相対主義の思考、それぞれの文化に優劣はなく、平等に扱いましょう、に慣れているに違いない。
それでも、彼らはホルガの風習に嫌悪を抱いた。やはり、感性は理性や知性では変えられないものなのであろう。感性は生まれ育つ中で形成される偏見のようなものである。仮にゴキブリを食べるのが当然の部族がいたとすれば、それに対しては「食料」
として観念する。しかし、我々は「害虫」や「キモイ生き物」として「まなざす」。それは知性や理性では、つまり頭の中でこねくり回したところで、動かし難い事実になっている。そのため、本作を観て「理性の敗北」という感想を抱いた。
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