備忘録

ミッドサマーの備忘録のネタバレレビュー・内容・結末

ミッドサマー(2019年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

最高でした。劇中のあるシーンと最後のあるシーンで泣きすぎて観賞後の爽快感がすごかったです。
前作ヘレディタリーが『悪魔ホラーに見せかけた家族ドラマ』でしたけど、これは『フォークスリラーに見せかけたラブストーリー』でした…。

主人公ダニーの成長物語だということが顕著にわかるのが、3回繰り返される『悲しみを抑えきれずに泣く』シーン。
一度目は家族が死んだ為に『クリスチャンに後ろから抱き抱えられながら』泣きますが、その次に彼女は『トイレにこもって』泣くことを選ぶんですよね。
この演出だけでクリスチャンの行動は彼女にとって何の為にもなっていなかったというのがよくわかるようになっていて…もう…つらい…。

そして3回目に来るのが、クリスチャンの浮気現場()を目撃してしまった為に『ホルガの人々と一緒に泣く』というシーン。
ここでホルガの面々は自分たちの家族となった(と思っている)ダニーの悲しみを模倣して一緒に泣きわめいてるんですけど、ダニーはそれに気づくと一瞬嗚咽が小さくなり、そしてまた大きく泣きわめきだす。
彼女が真に求めていたのは一緒に悲しんでくれる人だったのだというのがよくわかるというか、もうこれただのセラピーじゃん!?ってなるめちゃくちゃいいシーンなので、ダニーが羨ましいとすら思えました。

いや~~~~~~よかったよ!あんなクズ男なんて早く捨てた方がいいもん!もう忘れな!!って女友達のようにダニーに語りかけてしまいます。
ダニーとクリスチャンは最初の方で鏡を使った演出によって二人の距離の遠さがひしひしと伝わる作りになっていたので、もうダニーが別れ(9人目の生け贄)を決めるシーンはテンション最高潮でした!!

私が途中で感極まったシーンのひとつに、ダニーがメイ・クイーンを勝ち取ったというのがあります。大号泣です!!
今までダニーは主体的に何かをすることがなく、行動の影には常にクリスチャンがいました。そんな彼女が初めて自分自身の努力で勝利を掴み、それを讃えられ、『家族』を獲得する…涙なくしては見られないシーンでした。
「伝統だからニシンを丸ごと食べろ」と言われてチャレンジするも思わず吐き出すという失敗をしてしまっても、ホルガの面々はダニーの失敗を笑って許してくれます。彼女の獲得したものの大きさが伝わってくる素晴らしいシーンですよね…ね…。
だ…だって私たち観客は「ホルガの民は伝統の失敗を許さない」というのをこれまで(程度の差こそあれ)見せつけられてきているので……ハンマーで頭蓋叩き割られちゃうアレを想像せずにはいられないので……。

最後にダニーが笑顔を見せてくれたところも大号泣でした!
彼女は満足できる『何か』を手にいれることができたという事実だけで、過程はどうであれ家族の悲劇を乗り越えられてよかったねって思えます。
とはいえそれだけではなく、ホルガの面々は『生け贄の苦しみを模倣する』という欺瞞でしかないことを『家族の証』として演じています。死にゆく者の苦しみなんて生者にわかる訳ないですもんね…。
ダニーがやっと獲得できた家族でさえも欺瞞である、というのはもうアリ・アスターの作家性(というか性癖)満々でほんと最高です!

監督はダニーに自分自身をモロ投影してますけど、ダニーは結局「自分の悲劇を乗り越える為に加害側になる」ことを選んでいるので、そこもまたゲロ吐きそうになるほど気持ち悪くていいですね!(最大級の賛辞です)

あと作家性でいえば、世界観と相反する唐突な暴力表現だったり、途中にでてくるダニーの夢だったりはミヒャエル・ハネケぽくてめちゃ最高です!ハネケ大好きなので…。
映画自体の完成度がめちゃくちゃ高いので、前作の『ヘレディタリー/継承』と同じように『あ、ここはこれのオマージュだな』というのを見つける楽しさもあっていいですよね~~監督本人が挙げている参考映画も改めて全部観たいなという気分になります!

参考という面で言えば、私は宗教面のことがほんと疎いので、ホルガ入り口のアーチがもろ女陰だったのは入り口(子宮に戻る)なのか出口(出産)なのかどっちの比喩なんだろ~とかがわからず「ぐぬぬ…」ってなりました。また識者の解説を調べたり、勉強したりと、これからもまだまだ楽しみがあります!う~ん最高!!

サブリミナルな恐怖演出もたぶん見逃し多いので円盤買って一時停止しながら観なきゃと思えるのもカルト的ですね~最高~~もう最高しか言ってない~~~。
(あの…木が妹の顔になってるやつとか…気づいた瞬間の動悸が……)

最高のカウンセリング映画でした。
私はやっぱりダニーが心底羨ましいです。
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