朝田

ペイン・アンド・グローリーの朝田のレビュー・感想・評価

3.7
言うならばアルモドバル版「8 1/2」、もしくは同じフェリーニの「アマルコルド」か。つまりどこまでも自伝的な映画。過去作から一貫して描き続けた「母」というモチーフの原点が見えてくる、フィルモグラフィーの総括としての役割を担う作品。まるでアルモドバルの内面のを映像化したような撮影と編集が光る。鮮烈な色彩に包みこまれた過去と現在の往復。アルモドバルは過去の傷から立ち直れずにいる。しかし、落書きの跡や昔の恋人など過去の断片と触れることで少しずつ自らの過去を消化し始める。そして、分離していた過去と現在が一つのカットの中に共存した瞬間に、傷となっていた過去は現在進行形のフィクションとして消化されてゆき幕が閉じる。あまりに見事な構成だ。アルモドバル自身を演じる主演のアントニオバンデラスは完全に彼のベストアクト。ここまで繊細な演技ができる役者だったのかと驚かされる。かつて2枚目俳優として隆盛を極めていた頃とは違う、どこか引退作めいた枯れた味わいが、この作品の主題と見事に絡み合う。個人的に、カラックスの「ホーリーモーターズ」という例外はあれどこうした作家個人の内面を掘り下げていくような内容の映画はどうにも独りよがりに感じてしまいあまり好きにはなれない。だが、この作品ほど作家の内面とシンクロするように全てが緻密に構成されているのを目の当たりにすると好き嫌いを越えてただ圧倒される。
朝田

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