こなつ

淪落の人/みじめな人のこなつのレビュー・感想・評価

淪落の人/みじめな人(2018年製作の映画)
4.0
この作品のことを知ったのは、今年の5月に新世代香港映画特集で鑑賞した香港映画「私のプリンス・エドワード」がきっかけだった。「誰がための日々」「淪落の人」など首部劇情電影計劃(オリジナル処女作支援プログラム)の入選作は、新世代の作り手たちが発信するまだ見ぬ香港の魅力を私達に届けてくれる。

新人女性監督オリヴァー・チャンの長編デビュー作。脚本に惚れ込んだ香港映画の大スター、アンソニー・ウォンがノーギャラで主演を引き受けたことでも有名なヒューマンドラマ。

突然の事故で半身不随になってしまった上、家族とも疎遠になってしまったリョン・チョンウィン(アンソニー・ウォン)。そこに若いフィリピン人女性のエヴリン(クリセル・コンサンジ)が住み込み家政婦としてやってくる。広東語が話せない彼女にイライラしながらも、片言の英語で会話をするうちにお互いに歩み寄り、心を通わせて行く。やがてエヴリンが写真家への道を諦めたものの心の中ではまだ夢を追い求めていることを知ったチョンウィンは、彼女の夢を叶える手助けをしようと思い始める。

不運に見舞われ失意の中にいる世代や文化の異なる二人が出会い、お互いの人生でかけがいのない存在になっていく姿はとても感動的。香港の美しい四季とともに流れていく映像。お互いを尊重し合いながら、また夢を応援し合いながら少しずつ前に踏み出していく様子を温かな眼差しで描いている。

2014年の香港反政府デモ(雨傘運動)の支持を表明したことで、中国・香港の映画界から締め出され台湾に移住したアンソニー・ウォン。アクの強い演技で知られる彼が、孤独や怒りを抱え、偏屈だけど温かいチョンウィンを自然体で演じ、半身不随という難役を見事にこなしているのが素晴らしかった。クリセル・コンサンジが映画初出演にもかかわらず、善良で心優しいエヴリン役を好演。

「淪落の人」→落ちぶれて身を持ち崩す人。タイトルでは想像もつかなかったが、介護問題や出稼労働など現代の香港社会の現状を映し出しながら、大切な人に幸せになって欲しいという気持ちがどんなに美しいか、希望を持って生きる未来が誰にでもある、そんなことを教えてくれる作品だった。
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