YukiSano

TENET テネットのYukiSanoのレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
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傑作と駄作とは紙一重。
という言葉さえも意味をなさないであろう珍作・奇作。

タイムトラベルものが死ぬほど好きなのにコロナ禍のため劇場鑑賞を逃し、Blu-rayで鑑賞したダメSFファンとして思った感想は混乱。想像以上に難解で説明する気がない設定。わざと難しくして混乱させてくる演出。想像以上に素晴らしい映像よりも、想像以上に観客を煙に巻く語り口の方に圧倒された。

究極に難解なタイムトラベルもの「プライマー」と比べてしまえるほど混乱した。前からノーランはシーンの繋ぎ方が下手というかギコちないと思っていたが、今回はわざとそうしてるようだった。彼はあまりに凄すぎる映像を撮るため、細かい部分が下手くそなのが誤魔化されている。というか今回はそれさえ味になってる。

だからといって、ここまで観客を混乱させるメジャー映画があって良いのだろうか。わざと理解させないにも程があり、駄作スレスレまで追いこんでくる。しかし、その圧倒的な映像の暴力とも言える逆行時間と巡行時間の混ざり合いは誰も到達したことのない興奮を与えてくる。

まさに中二病のスタンリー・キューブリックとも言えるオリジナリティと圧倒的映像力。物語はシンプルで在り来たりなのに、究極レベルにまで高めた独創性でノーランにしか作れない映画となった。

ここにきて、名作や傑作の線引きとはなんなのか分からなくなってしまった。シンプルな物語をわざと難解にして混乱させて観客を理解させないという手法はミステリーやサスペンスの常套手段だが、明らかに常軌を逸している。劇場に何度も足を運んでもらう前提だけでなく、配信も意識してリピート再生を繰り返してもらう前提なのだろうか。


いや、ノーランは違う。
彼は、この作品を後生に永遠に残すためにあえて、この手法にしたのだ。

未来人たちが この作品を観た時に、どう感じるか、まで考察したのだと思う。

映画解説番組「プラスト」でも言及されていたようにCGを使わないことによって1920年代の映画のように本物だけを使うことで色褪せない作品を作るノーラン。また逆行映像というフィルム初期時代に戻るような映画史の再現。

それらを駆使して彼は、いつまでも語り継がれ考察され続けるキューブリックの作品のように、複雑で難解で、そして映像の力をフルに発揮した。

まさにニールのように過去に戻り、その遺産を未来に繋ぐためにノーランは映画史そのものを後進して更新した。

究極の変化の時であるコロナ禍の中、特異点のように現れたテネット。それは映画史の中で燦然と輝く珍作として永遠に語り継がれるだろう。

駄作と傑作のラインを優に越えて、過去も未来も飲み込んで映画史を体現する変態実験映画。二百億円かけて、こんな作品が作られることは、もうないかもしれない。

映画で時を超えること、それがノーランの最終目標だったことがこの作品で判明した。まさしく集大成。

ノーランがどこに行くのか、もう誰にも分からない…

コロナによって劇場公開という文化は縮小していくだろう。そして配信が支配していくかもしれない。

もしかしたらテネットは映画史最後の超大作になるかもしれない…

そう思うとテネットとノーランと、最後に死地に向かうニールの姿が重なった。

有り難う、映画史…
有り難う、映画館…
YukiSano

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