ブタブタ

TENET テネットのブタブタのレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
3.5
見る前は『007』✖️『カメラを止めるな!』だと思ってた。
しかし007のスタイリッシュさや惚れ惚れする様なカッコいいアクション、カメラを止めるなの緻密さや現実と虚構が四次元的に交わる様な驚きもなかった。
でももの凄い物を見たのは間違いないけど。
非常に意地悪い物の言い方になりますが各所で既に出始めてる感想・ブログ等読むと映画を芸術とか何か高尚な物だと思ってる方ほどクソミソに貶してる気がして。(←お前もそうだ)
ノーラン監督は007大好きで『インセプション』見るとやっぱり007撮りたいんだろうな~とか思いますけどテネットは007みたいなスパイ・アクション映画で更に「時間逆行とかしちゃったらスゲー!」の一点突破、ワンアイデア、出オチだと思う。
「主人公」「美形の相棒」「金髪美女」「悪役」のステレオタイプというより昔の映画みたいなキャラクター配置や、ヒッチコック映画の其れこそ表面をなぞっただけみたいな。
ある程度のネタバレもやむなしで全部懇切丁寧に解説が書いてあるパンフレットを熟読して挑んだのである程度は理解出来たのですが、よく考えたら見る前にネタバレを犠牲にして迄解説を読まなくちゃ理解出来ない映画って映画としてどうなの。

主人公の「主人公(直訳)」は本当に只の「主人公」で人物としての深みとかバックグラウンドとか性格とかそういう物が一切ない。
完全にゲームのアバター。
之は意図的だろうし名前がないのはドラクエとかの「主人公」と同じ。
兎に角身体能力は高く、拷問にも屈せず仲間の為に死を選ぶし目的は「世界を救う」だし。
この主人公は一種の「マジカルニグロ」だと書いてる評を読みましたが(マジカルニグロとはアメリカ映画で突然現れて白人主人公を助けてくれる都合のいい万能キャラだそうです)
ヴァン・ダインの有名な「探偵小説の十戒」にも「中国人を犯人にしちゃダメ」って一項があって、其れは昔中国人が怪しげな魔術を使ったりすると思われてたから何ですけど、多分にこの「主人公」はマジカルニグロや魔術を使える中国人みたいに、キャラクター自体が一種の万能アイテムでしかない。

「マクガフィン」と「空虚」

『TENET』も世界を滅ぼす「アルゴリズム」という何だかよく分からない最終兵器つまり「マクガフィン」を皆が奪い合うオーソドックスなタイプのスパイ映画。
ヒッチコックが提唱した物語を動かす「アイテム」である「マクガフィン」
なので「マクガフィン」とは物語の中心にある「空虚」であり其れを本当に「空虚」として描いたのがカフカや村上春樹の文学。
『TENET』は「アルゴリズム」と更に「主人公」という二つの空虚に「時間逆行」というアイテムを加えた壮大な嘘とハッタリの世界で、同じ時間と空間が延々と循環して円環を描いている、何だか夢野久作の『ドグラ・マグラ』(←永遠の堂々巡りで答えは出ない)と同じく久作の『少女地獄・第一章《何でもない》』(←全部主人公の嘘=つまり主人公は神でありゲームマスター)を合わせたみたいな世界(読んでない人には何のこっちゃだと思いますが)だと思います。

かように『TENET』は物語性や文学的要素を極限迄排した作品であるにも関わらず、カフカや村上春樹みたいなシュルリアスティックで極めて実験的・前衛文学的な作品だと思います(個人の感想です)

『12モンキーズ』が未来から過去への進行なら『TENET』は其れら未来人の過去への進行を迎え撃つ側の話し何ですよね。
敵は未来の物凄い科学で圧倒的な有利と思えば、やはり時間の流れに逆らってる分、過去側のが有利とかこの辺り『三体』にもちょっと似てると思ったりして。

三池崇史監督が『ガッチャマン』実写化の企画を持ち掛けられた時に「ガッチャマンをやるならダークナイト位の予算や規模が必要」と断った(で作ったのはヤッターマン)んですけど『ジョジョ』を実写化するなら『TENET』位の予算や規模が必要だと改めて思った。
CGのスタンドが出てきてドカーンバカーンではなくて「クレイジーダイヤモンド」「D4C」「メイド・イン・ヘブン」を実写でやったらきっとあんな世界になるだろうと思ったのでした。
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