青山

TENET テネットの青山のレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
3.8

オッペンハイマーの公開に合わせて、公開時以来の2度目の鑑賞。
相変わらず何が何だかさっぱり分からんかったけど、分からんままなんとなく楽しむ力が付いたのか劇場で観た時よりも断然楽しめました。


ジョン・デヴィッド・ワシントン演じる主人公=「名もなき男」が、一度は死んだことになっていていわばオバケのような存在として世界の命運を分けるミッションに参加していくという設定からして男のロマンに溢れています。私は「男のロマン」がよく分からないので最初観た時は微妙だったんですが、今回はそういうものとして観たので「なるほどね〜これが男のロマンなのね〜」という感じで突っかからずに楽しめました。
主人公が死んだことになっててしかも生きて帰れなそうなミッションに身を投じるということで悲壮感もありつつ、だからこそ彼の淡々と仕事をこなすプロ根性がカッコよくて痺れちゃいます。あとイケメンだし良い肉体してるしちょいちょい半目で斜め向く変な顔するのが可愛くて推せる。

SFもスパイ映画もどっちも苦手なので、時間の逆行という概念がやっぱり2回目でも全然把握できないし、イギリスがどうこうロシアがどうこう武器商人がどうこうっていう政治的な面もさっぱり把握できなかったです......。
そんでもそういう部分は分かれば楽しいんだろうけど、ワンダフルな映像の楽しさとクールだけど熱い人間ドラマはとても分かりやすく作られてるので私みたいなバカでも楽しめるのが良かった。

時間の逆行を軸にした映像の楽しさで言うと、車が逆向きに爆走してるシーンとか思わず吹き出してしまいました。ノーランの作品ってセリフにギャグとかは少ないんだけど、こういう映像がヤバすぎて笑えるみたいな変なユーモアセンスがあってオモロいっすよね。それとやっぱあの組み上がった瞬間破壊されるビルとかも「???」と思った。じゃあこのビルどっから出てきたんだよ!?という矛盾が、無機質の中の幻想としてそこに在る不思議さが好き。
「時間の逆行」という設定には、科学技術によって人類が進歩した側面と、科学が産んだ核兵器によって一瞬で原始時代に戻れるという事実とをそれぞれ時間の順行と逆行に委ねているような気もしました。

人間ドラマの面では、ノーランの作品って基本的に女性がモノ扱いされているんですが、本作ではヒロインのキャサリンがめちゃ印象的だった。それは演じるエリザベス・デビッキの異次元の美しさによるものも大きいとは思いますが、メメントとかインセプションとかダークナイトとかでは女がただのマクガフィンみたいな描き方がされていたのに対して、本作では1番感情移入できるキャラクターがキャサリンだったりして、彼女がもう1人の主人公と言ってもいいんじゃないかというくらい。変に主人公とロマンス的な展開にならずにそれぞれ交わらない道を行く感じも良かった。
一方で主人公とその相棒という男たちは任務に命をかけて任務のために生きているだけのある種虚しい存在(悪役のケネス・ブラナーも類型的で人間味を感じないキャラ造形)。こうした存在の虚しさも、記憶を持てないメメントの主人公や、自分がいるのが夢か現実かも分からないインセプションの主人公なんかと共通してて作家性を感じる。こういう、ある種緻密なシナリオのための装置のような人間の描き方と、そこから滲み出てくる本作の結末のようなエモーション、そのギャップがノーランの魅力でもあり嫌いな人は嫌うところでもあるよなぁと改めて思った。

まぁそんな感じで、ノーラン作品の中ではやっぱり突出して好きなわけではないけど、1回目に観た時よりはだいぶ楽しめたかなぁと思います。
あ、あと本作でもオッペンハイマーさんに言及されていたのに驚いた。ああ、ここで名前出てくるんだ......と。本作も世界を終わらせるヤバ技術を扱った物語なので、オッペンハイマーと対になる作品なのかもしれん(オッペンまだ観てないから知らんけど)。
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