新品畳

ひとよの新品畳のレビュー・感想・評価

ひとよ(2019年製作の映画)
3.6
千の夜をかけて積み重なった想いが「ある夜」の衝動を呼ぶ。
千の夜のことを考えればその理由は家族にあるけれど、一夜のことに限って言えば家族というものが言い訳になる。

夫を殺したのは突発的に気が触れたからであって、それでも「家族のためだった」といつまでも自分に言い聞かせ続けたのは、そうしなければ自責から彼女自身がその夜の後の人生を生きていけなかったからだろう。

15年の年月を経て、母は帰ってきた。
その足取りは軽かったとは言えないが、どことなく過去に自分が起こした事件を他人事のように捉えているように見て取れたし、子供達よりも当事者性を感じてないように思えてならなかった。

もちろん、家族への深い愛はあったのだろう。でもその愛は犯した罪への救いにはならなかったのではないか。手段として子供達という存在を社会と自責から恩赦を受けるための免罪符として利用しようとしたのではないだろうか。そこにある「母性」とはなんなのだろう。

きっと彼女は「人格者としての母」という自分に残された聖性を信じ、それに縋ったのではないだろうか。

社会が押し付ける「聖母」像と彼女自身が利用した「母性」の繋がりを考えると、いかんともし難い空虚さを覚えてしまう。
「外界から強いられる家族像」と「自分たちの中に内在し常に自己監視し続ける家族像」。
この二つの牢獄から出られない人々の話のように見えた。

「ただの夜ですよ。自分にとって特別なだけで他の人からしたら、なーんでもない夜なんですよ。」
そう蕩々と母の口からこぼれる言葉はどこまでも現実味がなく、救いにも戒めにもならないような不思議な頼りなさを持っていた。
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