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オペラ座 血の喝采 完全版のMikiMickleのレビュー・感想・評価

オペラ座 血の喝采 完全版(1988年製作の映画)
4.3
公開当時カットされて、ストーリーが破綻しているとあまり評価のよくなかった今作がついに完全版となってDVD化♪


不幸を招くと言われているオペラ『マクベス』の主演女優が事故にあい、急所抜擢された新人のベティ(クリスティナ・マルシラック)。
不安を抱えながらもオペラは大成功をおさめたものの、舞台照明の事故がおこり、照明係が殺害される。
そして、ベティの回りの人々が次々に殺されていく…
覆面をかぶった猟奇的殺 人鬼の正体は…


イタリアの殺人鬼サスペンスホラー「ジャッロ」または「ジャーロ」。

犯人は途中でわかるし、ストーリー破綻でもいいんですっ♪
アルジェントなんだから♪

まず素晴らしいのは、カメラワーク。

例えば、犯人および主人公の視点的カメラアングルだったり。他の作品でもそれは多様されているのだけど、これによって被害者に感情移入し、スリリングなものとなります。

また、様々なアップ描写。
皮手袋、からすの目、ナイフ…
それだけで恐怖をかりたてられます。
あえて顔を撮さなかったり、舐めるようなカメラアングルが不気味です♪

そして、アルジェントの映画は、直接的な性の描写を描かずとも、そこに倒錯的エロティズムを感じます。
美女がじわりじわりと窮地に追い詰められる性的嗜好。
完全に彼の性的嗜好なんだけれども、いやらしさではなく、様々な手工と独特の美意識をもってして、彼自身のフェティシズムをいつも前面にだしています。この独特の美意識がアルジェント映画の素晴らしいところ。

それ故に、ストーリーが破綻するのは仕方ないのです。
濃厚な倒錯的美意識に、万人がわかるストーリーは必要ないのです。
むしろ、それによって、倒錯性が増すのです。


また、彼の映画にはトラウマがよく出てきます。
この映画では、ベティが母のある性的趣味を覗き見してしまったがために不感症になってるんだけど、ラストでトカゲを助けるのはそのトラウマからの解放です。
アルジェントは虫やトカゲを性的なものの象徴としているので。
ナイフのアップ。

赤・青・緑のカラフルな色使いも、不気味さを演出。
ベティ目線で赤いビロードのカーテンを何枚もくぐり、その奥が母の子宮の象徴でもある劇場(劇場もよく出てくる)となるんだけれど、
安心だと思われている劇場=子宮の中で起こる恐怖は、母だからとて安心できるものではないという絶望的なものであります。

アルジェントの公私共にパートナーで、『サスペリア2』でいやというほど追い詰められる主人公を演じたダリア・ニコロディの目玉バーンのシーンや、グサグサ刺し、喉切り裂き、あご刺されて開けた口にナイフの先♪などの素晴らしいスプラッターシーンもさることながら、
人を殺す所を見せるために、縛り付け、目の下にテープで針をつけてまばたきさせないという名シーン。
血はほぼでないものの怖い… このアップ。
サディスティックそのものです。

後半のカラス大暴れ展開にはちょっと笑っちゃったけど、これも伏線踏んでます。

この時もだし、殺害の時に流れるブライアン・イーノのハードロック‼ それまでの妖艶な雰囲気からの盛り上がりも最高。 この音楽の使い方も彼独特のもの。
だけど、やっぱり常連のゴブリンの方が断然良いな。

あともったいないのは、『マクベス』のオペラに日本語歌詞がつかないこと。きっとストーリーに関係するような事を歌っていたはずなのにな。

残虐性と性的倒錯、カタルシス、甘美的陶酔感、美と恐怖、狂気…
やっぱりアルジェント大好き!
MikiMickle

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