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どん底作家の人生に幸あれ!のpikaのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

Filmarksの試写会で鑑賞。チャールズ・ディケンズの『デイヴィッド・コパフィールド』が原作で、ヴィクトリア朝のイギリスに生まれたデイヴィッド・コパフィールドが送る波乱万丈の人生と、その中で出会う個性的な人物を描く。
主人公のデブ・パテルをはじめ、キャストがとにかく魅力的にディケンズの世界を表現している。話としては原作から削っている部分も多いが、デイヴィッドの人生というテーマにうまくまとめていてかなり満足。
とにかく個性的で芸達者な役者を集めて、人物の関係性と魅力を中心とした話の運びにしているのはこの原作のアダプテーションとしてかなり正解なんじゃないかと思う。出会った人の振る舞いや言葉から記憶が立ち上がり、それが物語を形作るというのがディケンズの小説をあらわしているようでとてもいいし、そもそもディケンズの自伝的要素が入った『デイヴィッド・コパフィールド』という小説を、まさに自分の人生を織り込んだ小説を書く青年の話にしたのも映画ならではの翻案だと思う。全体的に人物描写だけでかなりパンパンなので、最後のエミリーが見つかってからの展開などを含めて、けっこう急な展開が多い印象はあるけど、デイヴィッドという軸はきちんとあるので十分おもしろい。
主人公が自らの人生を物語にして、それと向き合い何かを達成しようとするなかで小説の内容と現実が入り混じるという構成は去年の『若草物語』と同じだと思った。原作ファンを取りこぼすようなおかしな邦題も。
観ながら途中まではこの邦題でもそこまで悪くなかったのかなと思ってたけど、最後まで観ると、人生の中でさまざまな名前で呼ばれて最後にデイヴィッドという生まれたときの名前であり父の名前を選び取るという話であることがわかって、デイヴィッド・コパフィールドという名前を邦題からなぜ省いたのか全く理解できない。
原作でもドーラは「物語に合わなくなってきたらから退場させた」という雰囲気があるのでこの映画でのドーラの扱いはかなり原作に対して皮肉が効いたものになっていると思う。
監督のア―マンド・イヌアッチの作品は『スターリンの葬送狂騒曲』しか観てないんですが、それほどは全体として風刺、社会批判的な部分は少ない感じ。デイヴィッドの虚栄心やスティアフォースに気に入られたいという気持ちがヤーマスに災いをもたらしたとは一応言われてるけど、すぐに「そんなことないよ」とフォローが入っている。ユライア・ヒープとも、同じ下層階級からの立身出世を望むもの同士の対比などがもっとあるかなと思ったけど、そこまでは強調せず。
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