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甘いお酒でうがいのjamのレビュー・感想・評価

甘いお酒でうがい(2019年製作の映画)
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吾亦紅は不思議な花だと思う
鮮やかな赤から臙脂色まで表情の違う色味
ひょろっとした茎にちょこんと

一本でも風情はあるけれど
花束に紛れ込んで味のある脇役を演じる

花言葉は
変化 移りゆく日々

佳子さんは吾亦紅のような人
私にはそう見える

毎日愛おしむ自転車の
籠いっぱいの色とりどりの花
おかっぱ頭に花冠もとても良く似合って
坂道を下る残像が匂い立つよう

けれど
一人 
仄暗いキッチンでお酒を口に含むその姿は
黒みがかった吾亦紅


佳子さんの世界は
後ろ向きだと言うけれど
ガラケーのおばあちゃんに涙ぐみ
世の中に毒づくおじさんと
心の中で会話の相手をして(遂にはハモってしまうのはご愛敬)
近所の見たこともない景色に泣きそうになる

お母さんってよばれるってどんな気分?

おそらく
私と同じく佳子さんは
もう子どもは産めないだろうけれど

それでも
呆れるくらい簡単に人を好きになったり
踏切の向こうにあの人がいるって想像して
しあわせな気分になって
そして
それが本当のことになったり


パッヘルベルのカノンの有名なサビの部分
盛り上がるのは思ったよりもずっと後の方
低い伴奏の旋律が穏やかに
それは佳子さんや私の日常のよう


タンタララン タラ ララララ

あのメロディが聴こえてきたら
吾亦紅の示す 変化


鏡の中の自分が
なんだかしあわせそうに見える

さあ
新しい靴を履いていこう
jam

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