だいき

パラサイト 半地下の家族のだいきのレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
5.0
2020年公開映画20本目。

この映画は心に寄生する。

2020年アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞受賞作品。
2019年に行われた第72回カンヌ国際映画祭では、韓国映画初となる最高賞パルムドールを受賞。
2020年の第77回ゴールデングローブ賞では、外国語映画賞を獲得。
また、世界中の映画賞で約140の受賞、170以上のノミネートを記録しており、世界的に「世紀の傑作」との評価を受けている。
近年のパルムドール受賞作は、『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016年)、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(2017年)、『万引き家族』(2018年)とどれも貧困を描いた作品が続いているが、前3作に比べて本作は圧倒的に娯楽性が高い。
それでいて「軽く」ならないから末恐ろしい限りだ。

本作は貧富の差という格差社会を扱った映画で、これはポン・ジュノ監督のフィルモグラフィーに於ける定番のテーマでもある。
その社会批判を痛烈なアイディアで映像化&物語化するのがいつもの手口。
弱者が強者の裏をかく爽快さ。
強者の驕りと間抜けさ、弱者が故の滑稽さ、両者が相対する際のチグハグ。
弱者が成り上がるために同じ弱者を押し退け、虐げる残酷さ。
強者側に立ったと錯覚した弱者のこれまで意識もしていなかった乖離の哀しさ。
喜怒哀楽、どれかの感情に偏るのではなく、必ず何かと何かの感情が入り混じり、心搔き乱される。
観終わった後、揺さぶられ続けた心の置き所に迷い、暫し放心して、気が付けばドッと心地良い疲れに浸っている、そんな作品だった。

今回はその格差をまさに高低差で表現するという超シンプルなアプローチ。
特筆すべきは視覚的な対比。
嫌という程に、残酷なまでに強者と弱者の対比を丁寧に描く。
山の上と山の下。
広々とした空と電線だらけの空。
開放感溢れる窓と足元だけが見える地下窓。
贅沢なソファとテーブル、地べたと汚い台。
白い壁と薄汚れた壁。
間接照明と裸電球。
そして雨が山の上から流れ、濁流となり地下に流れ込む。
夢のような時間が過ぎれば、地獄のような現状が待っている。
表面上は取り繕うことは出来ても、本質の匂いは見抜かれ、明確な線を引かれ、越えられない壁が立ちふさがっている。
その閉塞感に心を蝕まれ、息苦しくなる。

全編通してシリアスなテーマなのに、不謹慎な笑いに溢れていてゲラゲラ笑いながら、暗い影が差すという絶妙なバランスを成立させた監督の手腕に脱帽。
俳優陣も言うことなしで、常に名演を保障するソン・ガンホが完璧なのは当然として、どうしてこんなみんないい顔しているのかと褒めても褒め足りないほど素晴らしい、彼等しかないだろうというキャスティングで織りなされる。
ただの格差社会を描くだけでなく、あらゆる方向に棘を飛ばす作品。
観客がどこまで気付けるかで、自分が上か下か、自覚しているか、無自覚かをテストする。
兎にも角にも前情報無しで鑑賞するのが鉄則。
とてつもなく不気味でゾッとするが、ユーモラスな傑作だった。
私はポン・ジュノ監督の下で寄生したい。

2020年劇場鑑賞1本目。
劇場鑑賞日:2020年1月13日
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