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罪の声のShinMakitaのレビュー・感想・評価

罪の声(2020年製作の映画)
2.0
昭和59年。お菓子メーカー「ギンガ」社長誘拐事件から端を発し、ギンガ・萬堂製菓・ホープ食品などを相手どり、商品に青酸を混入すると脅迫した日本初の劇場型犯罪が発生した。いわゆる「ギンガ・萬堂事件」だ。犯人グループは〈くら魔てんぐ〉と名乗り、マスコミと警察を翻弄。しかし結局企業からカネをせしめることなく姿を消した。その後も大阪・京都・滋賀の各府警県警が必死に捜査をおこなったにもかかわらず、平成12年に未解決のまま時効を迎えている。今も残る手がかりは、身代金受け渡し場所で目撃された「キツネ目の男」の似顔絵だけである。


平成30年の12月。京都でテーラーを営む曽根俊也は、クリスマスツリーの飾りを探している時にたまたま父の遺品を物置から発見する。それは大判の手帳と1984とラベリングされたカセットテープだった。手帳には英語でびっしりと文字が書かれ、テープには、幼い頃の俊也の声が吹きこまれていた。この声と内容は、今もネット上で聴くことができる「ギンガ萬堂事件」で企業にかけられた脅迫電話のものだった。…まさか父が事件に関与している⁈と驚愕した俊也。しかし父は、さほど英語もできなかったから手帳の主ではありえない。そこで父知人たちを当たった俊也は、手帳の主が伯父である曽根達雄であることを突き止める。達雄は学生運動に傾倒し、イギリスで行方不明になった人物だった。達雄の交友関係を調べ、彼が最後に立ち寄った小料理屋「しの」を訪ねると、そこの板長から、当時「しの」が〈くら魔てんぐ〉の溜まり場だったと聞かされる。達雄の友人であった生島という男も一味だと知った俊也は、生島とその家族について調べてみるが…

同じ頃、大阪の新聞社「大日新聞」の文化部記者・阿久津は、社会部からの誘いで未解決事件の洗い直し記事を書くことになった。ネタは「ギンガ萬堂事件」である。当時の先輩たちが残した取材メモをとっかかりに、2つのスジを追う阿久津。一つはホープ食品脅迫を打ち合わせる無線を耳にしたという証言。もう一つは、脅迫された企業が軒並み株価を下げる前に、何者かがその株の買いを行なっていたという仕手筋の情報だ。〈くら魔てんぐ〉が本気で身代金を受け取ろうとしなかったのは、それが目的ではなく、株の空売りで儲けるためだったのだ。無線のスジから金田という運転手の存在を掴んだ阿久津は、金田の愛人が営んでいた小料理屋「しの」に足を向ける。そして板長から、曽根俊也という男が自分同様に事件を追っていることを知る…



「罪の声」


以下、「ねたばれ きけん よんだら しぬで」

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グリコ森永事件直撃世代にはキャッチーで説得力のある仮説。その仮説だけでも良く出来ているのに、俊也と阿久津という2人の探偵役が全く違う出発点とモチベーションから調査を始め、やがて交差するという構成が爽快で、改めて脚本の力・劇映画の力を再認識させられた一本。2人が見る景色も追うターゲットも一切被らずに、つまりクドくなく事実を観客に提示する手腕がお見事です。俊也=星野源、阿久津=小栗旬というルックス的実在感も良かったし、脇の豪華さも楽しい。特に、俊也の母を演じた梶芽衣子、素敵だったなぁ。生島望の死を警察がちゃんと調べたら事件解決してたんじゃね?とかキツネ目は結局どうなったの?とかのツッコミ点はあるものの、グイグイ引き込む脚本力の前では特に気にならず。ロンドンロケや学生運動のモブシーンにも手抜きがなく、劇場公開映画としてのスケールもあり、です。

参考にしたいのは高村薫の「レディジョーカー」と、オランダのビール会社社長誘拐を描いたアンソニー・ホプキンスの映画かな。ぜひ、どうぞ。



レディジョーカー日記
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1471511691&owner_id=2940502
ハイネケン誘拐の代償日記
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