ブタブタ

罪の声のブタブタのレビュー・感想・評価

罪の声(2020年製作の映画)
4.0
例え映画やアニメ、ファンタジーの世界であっても「革命」が成し遂げられることは無い。
特に日本ではフィクションの世界でさえ「革命」が成功するどころか、「悪」としてさえ描かれず時代遅れの独りよがりで、大抵頭でっかちの勉強だけは出来るマヌケ共の仕業って極端に矮小化されて描かれる。
(少女革命ウテナでも革命は起きなかった)

二本しか監督作品がない長谷川和彦監督の幻の映画『連合赤軍』は、企画では永田洋子を山口百恵(即ちその時代のアイコンたるアイドルが演じる。今だったら平手友梨奈さんだろうか?)加藤三兄弟と少年Aによる超能力大戦、完成すれば16時間の超大作だったという。
(恐らく之はホドロフスキー監督版『DUNE』と同じく永遠に見る事が出来ない皆の妄想と幻想によりとんでもなく膨らんだ超大作映画)
当然マトモな連合赤軍のノンフィクションである筈はなく「1968年の激動の時代」世界各地で巻き起こる革命の嵐は世界を席巻し、国家権力VS革命勢力の闘争は第三次世界大戦へと発展し、資本主義と共産主義社会に世界は二分されるか、最終戦争により世界は滅亡するか、恐らくはそこ迄行くのだと思う。

人間の精神の変容が現実や歴史すら改変し「もう一つの世界」を出現させる。
PKディックのSF小説でも繰り返し描かれる歴史改変SFと同じく『罪の声』も「グリコ・森永事件」が「ギンガ・萬堂事件」と名を変えて、その真相が明らかになる一種のパラレルワールドのお話し。

『罪の声』はかの「グリコ・森永事件」をモデルに社長誘拐やお菓子への毒物混入と企業脅迫という表面的な事件の水面下で、犯人グループの正体や目的、犯罪計画の全容と真犯人は誰か?という氷山の一角から全体増を推測したり、発掘された恐竜の頭から全体の化石を再現する様な想像力により点と線を結び、「グリコ・森永事件」の真相に迫る緻密かつ大胆なミステリーだった。

同じく迷宮入り事件「三億円事件」をモチーフに犯人は女子高生だったというSF(?)『初恋』もその背景には「60年代安保闘争」が深く関わっていて犯人達の「国家権力にひと泡吹かせる」=「革命」みたいなしょうもない、幼稚な考えや思想が犯行動機になっている。
この犯罪によって被害を受けたのは何の関係もない子供達(お菓子を食べられなくなった)や真面目に生きる市井の人々や、そしてあの脅迫電話に使われた3人の子供達であり真犯人の言う「国家権力にひと泡吹かせる」などと言う事柄はその他の犯人グループメンバーにとっては何の価値もなく(彼等の目的は当然金である)真犯人とその追従者(あの人)の自己満足の産物でしかない。

あの「声」によって人生を狂わされたり、突然現れた「声」によって築き上げた家族の幸せを破壊されそうになる嘗ての子供達三人による迷宮入り事件となる筈だった事件の真犯人を白日の元に引き摺り出す、身勝手な「革命」とやらへの復讐、反革命のお話しだったと思う。

この事件の象徴とも言える存在「キツネ目の男」とは何者なのか?
映画を最後まで見ても明らかにはならない。
誰もが知ってて多数の目撃者があり、全ての中心に居る様でいて真犯人や犯人グループですらその存在を無視してるかの様に見える。
正にマクガフィン。
「酒鬼薔薇事件」や「美容師バラバラ殺人事件」
で度々目撃され犯人だと思われるも、犯人が捕まった後は完全に無視され忘れられた「関西弁の中年男」という存在があった。
「キツネ目の男」も若しかするとこの「関西弁の中年男」や「切り裂きジャック」の様な、人々の事件に対する恐怖や妄想や、事件そのものが生み出した概念というか共同幻想の様な物だったのかも知れない。
それと今はすっかり自転車旅の人の火野正平さんが余りにも不自然に突然テイラーに居るからあの人が実は真の真犯人かと思ってた。
それから子役の芝居がいかにも子役芝居(しかもヘタな部類)なのが残念だった。
ブタブタ

ブタブタ