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罪の声のpenのネタバレレビュー・内容・結末

罪の声(2020年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

顔ぶれが良い。
事件を知る人や関係者を演じる役者陣、『アンナチュラル』や『MIU404』でレギュラーだった人々を除くと、火野正平、梶芽衣子、堀内正美、塩見三省…佐藤蛾次郎まで出てきてびっくりした(最後の犯人の枯れ具合も良い)。
この役柄にこのキャスティング! という意外性はあんまり感じられなかったけど、逆にいえば適材適所の配役をしている。だからこそ生まれた安定感は、少しずつ真実へ近づいていく物語展開に花を添えていた。

星野源の対を成す存在として配置された宇野祥平の存在感が素晴らしい。過去に囚われ、声を発したが故に声を失い、そして何もかも失った人間の悲哀が演技から醸し出されていた。
この人の魅力が自分の高評価の大部分を占めているかもしれない。

野木亜紀子氏の検証に検証を重ねて物語を紡いでいく手腕は、原作付きの映画でも遺憾なく発揮されていて、氏の手掛けるドラマシリーズをも連想させる。特に最後、1人目の"声"である彼女の物語を編集で畳み掛けて見せる演出は、先述したドラマ作品のようだ。土井監督はどちらかといえば『逃げ恥』タッグなんだけども。

一方で映像的な魅力はあまり感じられず。
昭和の回想(特に安保闘争)、イギリスでの撮影は気合入っているけども。ドキュメンタリーのように進めたいのか、サスペンスドラマとして進めたいのかが曖昧になっていて、全体的に煮え切らない印象。映像の体感スピードが上がっていく感じがあまり無いというか。
いっそ塚原あゆ子監督で観てみたかった気がするが、忙しかったかなぁ(多分今後あるとは思うが)。

それと平成から令和へと年号が変わる時期に昭和の事件、それに絡んだ日本の歴史を総括する名目がある訳で(学生運動の影が顔を出してきてるから、それと向き合うことにならざるを得ない。終盤の解き明かしとも関係してるし)、その暗部に触れていこうとしている危うさがあまり感じられなかった。それも盛り込むともっと長くなりそうなので、個人のドラマに重きを置いたんだと思うが(原作はどっちのバランスなのかは分からない)。塩見三省の場面で最大限頑張ったのかもしれない。

ただし脚本と役者陣の演技が光っているので、それらを楽しむことで惹き込まれるし、胸を打つ瞬間もあった。力作といっていいし、ちゃんとしたものを作ろうとしている姿勢には好印象を持った1本です。
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