Maiki

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊のMaikiのレビュー・感想・評価

4.8
〜僕が21になっても夢を追う理由〜

 まさかウェス•アンダーソン作品の新作を映画館で楽しめる日が来るとは。。
しかも兵庫県最大と言っても過言ではない「TOHOシネマズ西宮」でそれが上映された。

 これには大きな意義がある。

 【天才ウェス•アンダーソンの存在】
 ウェス•アンダーソンと言えば、言わずと知れた天才インディーズ監督であった。監督から脚本までを務め(いくつかは旧友のオーウェン•ウィルソンと共同制作)、彼自身の世界観を主軸にここまで昇りつめてきた。

 そして彼の実力を物語る様に、本作には現ハリウッドを担うティモシー•シャラメやシアーシャ•ローナンなどの若手大物から、マクドーマンドやウェレム•デフォーの様な名を馳せてきた大物俳優陣が彼の一作品に参加している。もちろん制作陣を含めたいつもの「ウェス•ファミリー」陣もだ。

 【鮮やかまでにウェス色】
 本作は全ウェス作品と比べても一番彼の世界観や彼の作りたい映画像が際立って見える。それはウェスが想う「自由•芸術」が縦横無尽にハリウッド界の常識を踏みつけ、駆け巡っている様であった。
 アスペクト比が章によって変わるのはもはや彼の作品では当たり前だ。
 だが本作ではそれだけに飽き足らず、同じシーン内でカラーを印象派的な色から白黒に変えてみたり、実写から突然アニメーションに移り変わったり、字幕を絵の中の要素として配置していたりともう彼の遊び心が全開!
 写真ではなく静止的な映像を。印象付けたいカットではスローモーションの様な演技を俳優に!
 その情報量の多さと、自由な様はついついニヤニヤさせられてしまう。
 映画構成もいつも通りの型破り。雑誌『ニューヨーカー』をモチーフとした架空の雑誌『フレンチ•ディスパッチ』。その編集長の追悼号でもある最終号の4つの記事を辿っていく様な構成。
 簡潔に表せば、4つの物語からなるアンソロジー映画である。

 【4つの記事と3つのテーマ】
 当然どれもテーマ•ジャンルがそれぞれ異なり、一つ一つに違う感情と味がある。
 Story #1『確固たる名作』では「芸術とお金」またウェス大好き「禁断の関係」をテーマに、クライムラブストーリー。
 Story #2『宣言書の改訂』では「若者の自由意志とその葛藤」(インタビューでウェスも意識している事を肯定)「青春と恋の行方」をテーマに、ヌーヴェル•ヴァーグ的な物語。
 story #3『警察署長の食事室』では「移民の生きる意義と葛藤」をテーマに、本作で最もド派手なクライムサスペンスが展開される。

【映画人としての想い】
 どれも楽しく面白い。だがビル•マーレイ扮する編集長は各記者に常に問う。

「そこに意義や伝えたいことは明確にあるか」

 この問いかけは本作に留まらず、ウェス•アンダーソンの作品にかける想いが詰まっている様に思う。
 本作にも「自由意志」や「芸術の素晴らしさ」など彼の想いが詰まっている訳だが、これは映画などの芸術における本質だ。
 本来なら言わずもがなの問いではあるが、現代人はこれを忘れかけている。ウェス作品を観ていると度々遊んでいる様にしか見えないのでそれも仕方ない。
 だが彼はプロだ。自身の伝えたいテーマを自分色の袋に梱包し、見やすい様に世の中に映し出す。それも自分色は素人目でも分かるほどに強火。

 そんな彼の「芸術」への想い、彼が想う「映画の自由さ•面白さ」が本作には詰まっているのではないだろうか。

 【Summary】
 始まりは完全インディーズ。そしてこんなにも想像力豊かで独創性のある創作映画が、日本の大手映画館で上映される。
 これほどまでに夢に満ちた事が他にあるだろうか。現在の日本で映画監督や脚本家を目指すのは無謀に近い。きっとバカのする事だ。
 だが彼の作品•作品作り中の楽しそうな風景は、私のバカ心に強く訴えかけてくる。

 「映画を作りたいんじゃないのか?自身のしたい事で生きて何が悪いんだ?」

 「映画の夢」を見せられてしまったのだ。
 
 追わずにはいられないだろう。
Maiki

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