ひれんじゃく

ミュウツーの逆襲 完全版のひれんじゃくのレビュー・感想・評価

ミュウツーの逆襲 完全版(1998年製作の映画)
4.8
大変によかった。劇場版1作目でこれはバケモノでしょ。
「本物であろうとコピーだろうと生まれた方法が違うだけでどちらも命がある生き物であることに変わりはない。だから優劣つけずにこの世界を分け合って暮らしていこう。なぜ生まれたのかは分からなくとも、生きていればその理由があとからついてくるかもしれないから」っていうメッセージを大人にも子供にも分かりやすく簡潔に、ポケモンの世界を絡めつつ示していくのが凄い。

ポケモンは人間にゲットされる側であって人間やポケモンを使役するなんて違う、というトレーナーの驕りも描いてたし。心が痛い。人間様が絶対的に上なのではなく人間のそばにいることを選んでくれたポケモンもいるという意識を持ってポケモンGOをしたいと心から思ったし現実世界の動物と人間の関係性にも言えることだなと。冒頭の「いきものは痛いときにしか泣かない。悲しくて泣くのは人間だけなんだって」というセリフと互いに傷つけ合うことの無意味さに気づいてそれに巻き込まれたサトシを想って涙を流すポケモンたちのリンクっぷりがすごくて涙が止まらなくなる。初めて仲良くなった人から教えてもらった最初の感情が悲しみで、涙を止める方法を教えてもらえずじまいでお別れが来たから涙を枯らすしかなかったミュウツーのことを思うとまた。人間の特権として悲しみの感情を挙げるのは果たして適切なのかという。

生まれたての時に出会い、自分たちが生まれた研究所の裏にあるミュウが住む山という広い世界を見ることなく死んでいったコピーたち(ヒトカゲ、フシギダネ、ゼニガメ)を自力で完成させて最後には彼らと一緒にそこを目指したことを思うとつらい。初めこそコピーの優位性を示して驕り高ぶる人間からポケモンを剥ぎ取ったら何もできないじゃないかとせせら笑うつもりだったのかもしれないけど、オリジナルとの間に差を見出すことをやめて共通点を見つけた瞬間に彼らを見捨てるでもなく共に生きようとするミュウツーの優しさがつらい。そもそも私欲で自分を作り出した人間に対して「復讐」でも「宣戦布告」でもなく「逆襲」を選択できた時点で優しさが滲み出てる。ミュウツーが手にかけたのは直接自分を好き勝手に使役した人間だけで、サトシとかみたいに関係のない人間は殺そうとしなかったし。人間という大きな枠を敵とみなさず直接害を与えた存在だけを憎めたところがほんと。そして逆襲という言葉通り、敵を滅ぼすのではなくあくまで自分たちの実力でもってオリジナルたちを見返すことができたらそれでいいという発想とか。リザードンら御三家のコピーたちが本物より強いことを示した後にサトシたちを追い出そうとしてたことを考えるに、多分ミュウとの戦いも向こうが諦めてたら何もせずにその背中を見送ってたんだろうなと。ミュウツーが大好きになった。

ミュウツーが喋ってんのに周りをキョロキョロするミュウに対して話を聞けよとだけは言いたい。そしてオリジナルの方が強いんで…とけしかけるな。煽るな。オリジナルvsコピーの二項対立を明確化したかったんだろうけどミュウの能天気さに笑ったし腹立つことすらあった。
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