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はちどりのpenのネタバレレビュー・内容・結末

はちどり(2018年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

多感な10代の少女の日々を静かに丁寧に追いかけていく映画なのかなと想像しつつ臨む。もちろんそういう面が大部分を占めているけども、それと同じくらいに暴力の匂いが充満していて、その不穏さで心中穏やかでない自分がいた。

いつ手が出てもおかしくない雰囲気というのは観ていて気持ちが不安になってくるものだけど、それが家族という少数単位の中で蔓延っているとより一層そういう気持ちになる。主人公の父親、そして兄の強権的抑圧的な態度によって、映画冒頭から暴力の匂いが立ち込めているように感じてしまう(そして実際に振るわれた時の不穏さといったらない)。
かといって父や兄は暴力を楽しんで振るっている訳ではなくて、それをすることが家族にとって正しいこととしてやっているようで、それを正しいこととするような家父長制に二人は縛られているのかなぁと考えながら観ていた。思えば本作に出てくる主人公とその友人、主人公と恋人の関係(後者は彼氏の身勝手な振る舞いで一度ヒビを入れてしまうけど)、これらが完全に壊れる原因には相手側の親の都合が見え隠れしていた。主人公も含めて、多くの人が家の中の力関係に振り回されていたような気がする。

暴力に耐えるのは間違いだと諭してくれる塾の先生が映画では登場する。主人公のことを一人の人間として見つめながら、本当にすべきことは何かを教えてくれる彼女と彼女に憧れを抱く主人公、二人の関係性が印象深かった。この先生の背景は特にそんなに語られる訳ではないけど、彼女の一挙手一投足、1つ1つの台詞から、彼女も同じ経験をしてきたんじゃないかと感じさせる余白がある。本作ではこの人はどういう人物なんだろう、という想像を一人一人からすることが出来て(恐らく色んな人が色んな表情を見せるからだろう)、長編デビュー作でこんな風に各登場人物を際立たせる監督は凄いなぁと。

ラストカットで真正面から捉えた主人公の表情はある一点を見つめているのではなく、周囲を探るように目を動かしている。このように模索しながら彼女はこれからも生きていくのかなと思えたし、彼女が納得出来る道を歩んでいくことは出来ないだろうかと考えていた。そんな風に主人公の姿から目が離せなくなる作品。
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