お湯

はちどりのお湯のレビュー・感想・評価

はちどり(2018年製作の映画)
4.7
映画全体としては静かなトーンで進んでいくけど、ずっといろんな展開があって飽きなかった。物語の端々で観客に考えさせる余白があって、観終わった後もその余韻に浸ってしまった。かなり好きな作品。以下、その余韻の中で頭に浮かんだこといろいろたくさん!

〜〜〜〜〜〜〜


90年代、家父長制が根強く残る社会。男性が優遇されて当たり前な環境に理不尽さを感じながらも、我慢して通り過ぎるのを待つのが習慣になっていた時代。思春期真っ只中の14歳の女の子が、家族にも学校にも居場所を見つけられない中で、唯一心を開いた大人は「誰にも殴られないで。約束して。」と言ってくれた人。1人の主体として、意思ある人間として見つめてくれた人だったんだよな。

「自分が嫌になったときは、心を覗いてみる。こういう心があるから、自分が嫌になるんだと分かる。」
「つらい時は自分の手を出して指を一本ずつ動かしてみる。何もできなくても、指は動かせる。神秘的でしょ?」
ヨンジ先生がかけた言葉は、昔の自分が聞いたら凛とした強い大人の言葉に聞こえたかもしれないけど、少しだけ歳を重ねた自分には、先生のこれまで抱えてきた挫折や苦悩が見え隠れする気がした。


家族って、縛りつけられて傷つけ合うけど離れられない、厄介な集合体なのかもなあ。無償の愛とか絆とかを見せられるよりもリアルな描き方で好き。

主人公の幼い両性愛も、そこにクローズアップすることはなく描かれていて、監督がインタビューで、「なぜ描いたのかという理由はありません。バイセクシュアリティは存在する。だから描きました。」と話していたと聞いてさらにグッときた。
家族やセクシュアリティをコンテンツ化して消費するんじゃなくて、そこにあることを前提にどんな物語を紡いでいくのか、そんな映画をこれからいっぱい観たいなあ。

時代背景、そこに生きる人たちが持つ習慣・環境、思春期特有の心の揺れ動き、登場人物同士の関わりによる作用、全部全部丁寧に、繊細さをもってじっくりと描かれていた。
朝、夜明けごろの、世界が白んで露が落ちているときのようなちょっと湿った、でも新しくて澄んだ光と空気を感じる映画。なんかそんな感じがした!また観たい!
お湯

お湯