Hiroki

天国にちがいないのHirokiのレビュー・感想・評価

天国にちがいない(2019年製作の映画)
4.0
2019カンヌの特別賞&国際映画批評家連盟賞受賞作品。
“現代のチャップリン”ことエリア・スレイマン最新作。(ちなみに本人は自分の映画はチャップリンよりバスター・キートンに近いと思っているみたいだが…)

エリア・スレイマンは基本的に「映画にメッセージは必要なく観る側に想像の自由を残したい」という考え方なのであまり考察したり、深読みしたりする事に意味はない。
必要なのは“感じる”事。
そう考えると作風は全然違えど、アレハンドロ・ホドロフスキーに近い感じはする。
彼らの映画の前では自分の思考なんてちっぽけで全く通用しない。そこに自分のあらゆる感覚を総動員してただただ感じるのみ。

物語の簡単な流れとしてはパレスチナ→パリ→NYとスレイマン自身が映画を売り込むために旅をしていく物語。
イスラエル生まれのパレスチナ人(現在はフランス在住)という複雑なバックグラウンドのスレイマンだが特に宗教的な内容なわけではない。
それは冒頭の暴力的な司祭のシーンで良くわかる。

特徴としてはまずスレイマンがほぼ喋らない。周囲の人々も必要最小限しか喋らない。
そして大きな流れを追うというよりは、彼がそれぞれの街で出会う体験(想像もプラスして)を5分くらいのスキットにし、それをたくさん繋ぎ合わせていくような構成。
ここらへんの要素はちょっとMr.ビーンを観ているような感覚だった。シュール&スタイリッシュなMr.ビーン。
あとは美しく研ぎ澄まされた映像。
異常なまでに拘るシンメトリー(あるいはアシンメトリー)の構図。
人間は1人なら真ん中に。2人なら左右に。
カメラは基本固定で人間が動く事で構図を変化させる。
この辺りは昔の日本の小津や黒沢を彷彿とさせる。(実際影響を受けていると公言している。)

それ以外に強く感じたのはとても優しい作品だなーという事。
例えるなら、昼下がりの窓から柔らかい光が差し込む電車でまどろんでいるような、そんな感覚。
鑑賞中に少しうたた寝をしてスキット1,2個飛ばしてしまう。そういう普通の映画では許されない事もこの映画では許容してくれるような。
It must be heaven。まさにここは天国にちがいない。

色々言ってきたけど、とにかく体験しないと共有する事ができない。
まさにエリア・スレイマンの世界。

2021-33
Hiroki

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