Joker

燃ゆる女の肖像のJokerのネタバレレビュー・内容・結末

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

まるで絵画を観ているかのような芸術的な作品だった。

美しいの一言。

カメラワークはESがほとんどなく、常に人の目線の高さを保っており、また顔を捉えたショットが多くて、ナチュラルで自然味がありより心情が画面から伝わってきたように感じた。

音に関するこだわりも凄く、ほとんど音楽を使用することなく、暖炉で木が燃える音や雨や風の音だけをバックグラウンドで使用しており、ありのままで臨場感が非常にあった。美しい音楽や名曲でシーンをいくらでも際立てたりできるが、そういった音楽を使ってシーンを際立てたり、単調にならないようにしたりせずに、ストーリーと演技、そして音だけで作品づくりに挑んだ点は特筆すべき所だと感じる。
それ故劇中の焚き火の周りで一斉に女性たちが歌い始めるシーンはそれまで音楽の使用が無かったこともあり、際立って美しく鳥肌が立つほどだった。

ストーリーは同性愛でなく「愛」そのものについて描いていたと思う。マリアンヌとエロイーズがお互いを見つめる視線、表情から相手に対する純粋で真っ直ぐな愛が画面からありふれて伝わってきた。

そしてマリアンヌがエロイーズを深く知るにつれて彼女の肖像画がより本質を捉えたものになり完成に近づいていく。しかし肖像画が完成してしまうとマリアンヌは島を去らないといけなくなり、2人が愛しあい絵が完成に近づくにつれて、2人の別れも近づくジレンマがあまりにも切なかった。

ラストのエロイーズがかつてマリアンヌに弾いてもらったヴィヴァルディの「四季」の「夏」を感無量で聞き入っているシーンは、フラッシュバックなど写らずただ彼女が音楽に心身浸っているシーンが続くが、ここで彼女が短くも激しく燃えるように純粋に愛し合った日々を一つ一つ思い出し、ここの底から愛しそして生を感じた日々に喜びそしてそれがもう戻ってこない現実に悲しむのを、観ているこちらも彼女の横顔から感じざるおえなかった。

観終わった後に押し寄せてくるものが凄く、しばらく気持ちを落ち着かせることが出来なかった。

この美しく繊細で感情に溢れた映画を言葉という固く決められたものでは言葉の間で抜け落ちるものが多くとても全てを書き留めることは出来ないと感じた。

「映画」とは正にこういうもので、それが忘れさられたこの時代に数少ない女性監督から作られたのが何よりも嬉しかった。

あまりにも美しく、純粋で、観るものの心を燃やすような映画だった。
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