マキノ2

燃ゆる女の肖像のマキノ2のレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.1
画家のマリアンヌが娘のお見合い用の肖像画を描いてほしいという依頼を受けてある島に行く。そして肖像画を完成させながらマリアンヌとその娘エロイーズが距離を縮めていくーー。

一つ一つの場面が絵画のように美しい。マリアンヌもエロイーズもちっとも笑わない、不機嫌そうな仏頂面で相手のことをジッーと見てる。でも内には燃えるような感情がある。音楽が一切ないことが、登場人物の言葉や微妙な表情の変化を汲み取ることに集中させられたし、その繊細さに美しさを感じるいい役割をしていたと思う。

このたった数日間の恋がお互いにとって生涯忘れられない恋になるのを分かっていて、思い出すための絵を描いて別れていくの綺麗で切ない。

オルフェウスの物語。夫(詩人)が妻の方を振り返って妻が奈落の底に落ちる話。マリアンヌとエロイーズも二人の別れの際、エロイーズに振り返ってよと言われて、マリアンヌはマリアンヌがこの物語を解釈したのと同じように、振り返る。愛の衝動で。画家、芸術家として作品の美しさのために。そしてその後、父の名前でオルフェウスの物語の夫が妻の方を振り返り永遠の別れが訪れた瞬間を描き作品として発表してるのが印象的だった。まるで自分とエロイーズの別れを重ねるように。そして"振り返った"ことを芸術として昇華させるように。

そして2回目の2人の再会で、エロイーズは自分のあの物語の解釈と同じように、マリアンヌに気づいてるけど、涙がこぼれながらも笑っていたり、表情、感情がグチャグチャになりながらも絶対にマリアンヌの方を振り返らない。物語だとここで振り返ると永遠の別れが訪れてしまうから。そしてここで初めて流れる音楽、ヴィヴァルディ夏。真っ白な画用紙に絵の具でピュッと一本大胆に線を描いたような鮮やかさ。

二人の物語の解釈どおりに、別れの際振り返ってしまうマリアンヌと振り返らないエロイーズの対比。このエロイーズの"振り返らない"という行為がマリアンヌへの愛だと思うと凄いなと思ってしまうので多分私は振り返ってしまう派なんだと思う…。

ソフィの昔の西洋の絵画の中にいそうな不思議なフェイスと存在感。この使用人のソフィが一番好き。子供を堕ろすときに辛そうなソフィの隣で赤ちゃんがキャッキャしてるの残酷。

女についての映画でもある。女性画家として生きていくことの厳しさ、父の名前を借りて作品を発表しなければいけない、女しかいない島、お見合い、肖像画、墮胎…。男性が登場するのは物語の最初と最後、女だけの物語の始まりと終わりの合図みたい。注意深くみてると結構みつかる。
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