カイ

名もなき生涯のカイのネタバレレビュー・内容・結末

名もなき生涯(2019年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

世界に歯向かった男の生涯。テレンス・マリックが実在の人物を映画で描くのは初めてのこと。ヒトラーへの忠誠を拒否したことで、反逆罪で死刑となった農夫フランツ・イェーガーシュテッターの生涯を、美しく、壮大な自然の映像と共に語る。イタリア、オーストリア、ドイツで撮影された映像がとにかく美しく、映画館の大画面で観てこそ映える映画。演出面でも実に印象的かつ効果的に使われている。フランツの生き方に共感できない人もきっといるだろう。自らの生命を、家族との幸せな人生を、両親の愛を、それらをかなぐり捨ててまで己が信念を貫くことに何の意味があろうか。繰り返される問いかけ。誰が君の小さな抵抗を気にするのか。神も、世界も、故国も、時代も、隣人も、皆が彼を見捨てた世界で尚も己が意志を偽らないことが何になろうか。しかし、ある絵描きの言葉が心を掴んで離さない。「人は言う。もし同じ時代に自分が生まれたなら、私はキリストを裏切らない、と。そんな人間こそキリストを裏切るのだ。」フランツは神の為に殉じたのではない。自らの自由意志によって、間違っているのは世界の方であると告発したのだ。例え誰の目に留まることなくとも、自分は誰よりも自由に死んでいけると。だからこそ、175分をかけて観客自身が追い続けた果ての言葉。全てが集約されたジョージ・エリオットの引用が心を打つ。
「歴史に残らないような行為が世の中の善を作っていく / 名もなき生涯を送りー / 今は訪れる人もない墓にて眠る人々のお陰で / 物事が さほど悪くはならないのだ」
カイ

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