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その手に触れるまでのmのレビュー・感想・評価

その手に触れるまで(2019年製作の映画)
4.8
クライマックスで起きると思っていた事が割と前半で起こる。ダルデンヌ兄弟はそれが起きるかどうかよりも、一線を超えてしまった彼のその後をこそじっくり見つめて寄り添う。

頑なだった少年の心が解ける契機が母の涙なんてちょっとシンプルすぎるかなと思ったらもちろんそんなに簡単にいく訳はなくて、宗教とインターネットという新旧の厄介なものによって歪んで固まってしまった人の思考の危険さと変わる事の困難さを映画は丹念に描いていく。普通の映画ならここで彼の心は変わるだろうというドラマチックなイベントも、現実的なリアリズムの前ではあっさり敗北して彼は変わらずに通過していく。

「その手に触れるまで」という邦題の意味が明らかになる展開には衝撃を受けて思わず悲鳴を上げてしまった。あまりに哀しく虚しく痛烈なラストを迎える少年の姿にこめられた、ダルデンヌ兄弟から現代人への問いかけの重さに怯む。
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