YasujiOshiba

ファルコンのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

ファルコン(1999年製作の映画)
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シチリア祭り(8)

HBO チャンネルで1999年に「Excellent Cadavers」(高貴なる遺体:政治家や判事や警察署長などがマフィアに殺された時に使う表現)というタイトルで放映されたテレビ映画。イタリアでは翌年「判事たち I giudici 」のタイトルで劇場上映。

原作となった小説はファルコーネとボルセッリーノを描いたもので、イタリア系のアメリカ人、アレクサンダー・スティッレ(Alexander Stille)の小説『高貴なる遺体、マフィアとイタリア第一共和性の死 Excellent Cadavers: The Mafia and the Death of the First Italian Republic』(1995)。

内容は、もうすぐ公開されるベッロキオの『シチリアーノ、裏切りの美学』とかぶる。ただベロッキオが見つめるトンマーゾ・ブシェッタの深さは、このテレビ映画では表現しきれていない。かろうじて、F・マーリー・エイブラハムの存在感のおかげでリアリティを保てている。

ファルコーネを演じたチャズ・パルミンテリはシチリア系のアメリカ人俳優で、ボルセッリーノのアンディ・ルオットはボストン生まれのアメリカ人だけれど、70年代の半ばにイタリアに移住。テレビタレントでありシェルとしてレストランも経営しているという人。

ファルコーネの妻となる判事のフランチェスカ・モルヴィッロ Francesca Morvillo を演じたのはアンナ・ガリエーナ。実際のモルヴィッロも美人だけど、ガリエーナは本人そっくりに見える。

そんなガリエーナのおかげで、この映画はラブロマンスに香る。オペラをふんだんに引用し、悲恋もののスタイルをとるという構成。テレビ映画としては悪くない。美男と美女が、正義の戦いの最後に爆弾で吹き飛ばされる悲劇はしかし、マフィアの撲滅へとつながるという筋。正義は最後に勝つというわけだ。

その分、ボルセッリーノの存在は小さくなり、ましてやマフィアとコーザノストラの存在は、どこまでもただ悪い奴らという位置づけになる。娯楽としては、それでよいのかもしれない。リッキー・トニャッツィの演出も、手堅く、抑えるところは抑えてはいる。ただ、ものたらないといえばものたらない。

発見は、ファルコーネの護衛として印象を残したピエルフランチェスコ・ファヴィーノ。ベロッキの新作ではトンマーゾ・ブシェッタを演じるんだよな。こちらのほうは、悪のなかにあるものをじっと見つめる作品。ファルコーネやボルセッリーノはむしろ脇役に後退するわけだ。

対照的なふたつの映画。そのギャップから浮かんでくるものはなにか。いろいろ考えるヒントをあたえてもらった。アマプラにあること、気づいてよかったわ。
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