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あゝ野麦峠のShoseiのレビュー・感想・評価

あゝ野麦峠(1979年製作の映画)
4.0
 冒頭、舞踏会で優雅に舞うシルクのスカートの西洋女性たちの足と、山道を工場へ向かう工女たちの足のカットバックが、この長大な物語のテーマを要約しています。制作当時大ヒットはしましたが、ドラマとして考えると、「敵役」と位置づけられる製糸工場の社長もドラ息子も番頭も、何の罰も受けずに終わってしまう不快感が残ります。しかしケン・ローチの作品の多くも敵役が懲罰されずに終わります。それが2020年の現代を切り取っているように見える。時代状況と市井に生きる工女の生涯にフォーカスし、当時の労働環境の非道を声高に糾弾しない本作は、40年かけて循環し、いまになって新しさを感じさせます。
 文字の読める工女が徳冨蘆花の「不如帰」を他の工女に聞かせてあげるシーンが印象的でした。学校も行けなかった無数の工場労働者たちの頑張りが、のちの日本の基礎を作ったのですね。
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