ワンコ

ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方のワンコのレビュー・感想・評価

3.9
【持続可能であるために、世界が良いところであるために】

ヒトが自然と折り合いをつけるのは簡単ではない。
亡くなった僕の父親は、趣味の畑をやっていて、よく野ネズミと格闘していた。
しょっちゅう、「あっ!コンチクショー!」と言うのを聞いていたような気がする。

林野庁で働いていた父は、豊かな森林をどうやって育むのかということでも格闘していたような気がする。
人間が手を入れないと豊かな森はできないのだ。
里山の危機と云うのと同じだ。

だが、全く逆のケースもある。
明治神宮の森だ。

明治神宮の建立と同時に藪だけの原野に人工的に作られた森は、ほとんどヒトの手を入れず、150年かかると言われていた森化を100年で実現してしまった。

自然の力はすごい。
ヒトの計画や予想をいとも簡単に裏切ったり、逆に叶えたりもするのだ。

このファームの試みは意義深いと思う。
言葉では簡単に循環型みたいなことは言えるが、実は千差万別なのだと感じる。
世界中がこんな風だったら、温暖化で心配する必要もなくなるのではとも思う。

ただ、ちょっと長い余談を許して欲しい。

僕は、コーヒー好きだ。
最近の酸味の香り高いものが特に好きだ。

コーヒーノキは、赤道を挟んで南緯北緯それぞれ25度までの間のコーヒーベルトと呼ばれるところで良く育つことが知られている。

だが、同時にこのベルト地域は、内戦の紛争地域だったり、麻薬取引も多く、貧困が集中している場所でもある。

今は紛争が少なくなってきているが、貧しい状況はあまり変わってなかったりする。

そして、こうしたところに住む人々が麻薬栽培など違法な作物栽培に手を染めぬよう、コーヒー栽培がキーだったりする。

例えば、ルワンダは内戦で虐殺が行われた場所としてよく知られているが、今は良質なコーヒーの生産地として名前が知られるようになってきている。
フランス人や日本人が栽培指導をして、多くの現地の人を雇って経済的な支援にもなっているのだ。
大規模コーヒー農園の様相もあるが、貧しさから抜け出すための一助になっていることは理解して欲しい。
ルワンダはコーヒーの品評会で最高賞をとったこともある。
ただ、有機ではない。持続可能な範囲で農薬は使用している。
コーヒーにはサビ病と云う独特な病気があって、予想もつかないところで発生したりするからだ。
有機がベストみたいなロジックを展開する人は案外多い。
ヒステリックな人もいる。
でも、分かって欲しい。
持続可能性を十分考慮して、働く人々の負担を減らしながら、病気のリスクも軽減しているのだ。

そして、有機のコーヒーが必ずしも美味しいわけではない。

やはり紛争が酷かったホンジュラスでもコーヒー栽培は盛んになっているし、太平洋だとパプアニューギニアも注目されている国だ。

こうして多くの人の努力で世界のコーヒーの味が上質になるに従って、逆に紅茶の消費量が著しく減少している。

それは、大規模プランテーションで、昔ながらの搾取を前提のようなシステムを継続し、安かろう不味かろうみたいな一部企業がのうのうとしていたからだ。

その企業の売却が決まったような話を聞いた。
持続可能で良いものを提供できるモチベーションの高いところが買収して、コーヒーと競えるようになればいいと思う。

大切なのは持続可能性と、良いものを作る意義を理解し、得られる収益の再分配を通じて働く人々のモチベーションを上げることなのだ。

ファームの弛まぬ試みと努力には頭が下がる。
頭でっかちな自分を自覚もする。

でも、いろいろと…要はバランスも大切なのだとずっと思っている。
ワンコ

ワンコ