優希

ロシア52人虐殺犯/チカチーロの優希のレビュー・感想・評価

4.2
国内盤DVDで視聴
DVDはプレミア価格だけどVHSなら安いはず

50人以上を殺害した実在の殺人鬼"アンドレイ・チカチーロ"を題材にしたサスペンス映画
原作は『子供たちは森に消えた』という小説
どこまでが実際なのかは自分も知らないけど、フィクションの部分も結構多いと見える
チカチーロの笑顔だけは知ってる人もいそう
ちなみに現時点では日本未公開だけど、チカチーロをモデルにした映画に"EVILENKO"という作品があるよ
そっちは架空の殺人鬼にしたこともあって現実には即してない、あくまで元ネタがチカチーロのおじさんって感じだけど……


1982年、農場で遺体が見つかった
検死官"ブラコフ"が許可を得て付近の森を捜索したところ、異なる時期に殺害された7人の遺体が発見された
ブラコフは捜査官に任命され、上官である"フェチソフ"の協力のもと連続殺人犯を追う
しかし上層部は「発達した社会主義国家であるソ連邦に連続殺人犯は存在しない」と主張
殺人鬼を捕まえられずに犠牲者だけが増えていくが、グラスノスチやペレストロイカといった政治改革によって事件は進展し始める……


映画のほとんどはブラコフを中心として進行し、その空気感は静かでハードボイルドな印象
全体的に静かで表情の変化に乏しいが、むしろそれがソ連社会の閉塞感・圧迫感・無機質さを醸し出している
チカチーロ逮捕の場面なんかアクション0の静かなシーンなのにすごい緊迫感とカタルシス

中心となる登場人物はブラコフとフェチソフで、実は作中でチカチーロはあくまで"Citizen X"であり、頻繁に描写されることはない
もちろん映画的な意味で粗雑に扱われることはない
でも中心となるのはその2人
ブラコフは潔癖で真面目
フェチソフは清濁併せ呑むような人物
この2人が激しくぶつかるのではなく、殺人鬼を捕らえるために協力し信頼しあうのが面白い
特にフェチソフはソ連社会で生きてきただけある印象で、上層部のせいで事件が進展しないと見るや選択肢に「贈賄・甘言・脅迫」が出てくる
それらを事件解決のために用いるのが憎めない
ダーティーな雰囲気あって好き

チカチーロによる犯行が直接描かれることは少なく、ゴアも全然ないので邦題に釣られてゴアを求めると拍子抜けしてしまうかもしれない
いかにもB級スプラッターな邦題だけど、かなり真面目に作られた良質なサスペンス
チカチーロと聞いてピンとくる人もいると思うけど、事件の流れにはソ連の社会情勢などが絡んでいる
チカチーロを追うスリラーの形を取りながらソ連社会の欺瞞についても描いているのが特徴的
"連続殺人は資本主義国にしかない現象"という主張や官僚主義はその筆頭だけど、他にもジプシー(差別されてる)の男性を拷問によって自白させて「事件は解決したことにする」シーンや、社会悪の摘発には変わらないとして捜査関係者が同性愛者を摘発し続けるシーン
モスクワから派遣された"ゴルブノフ"は自分の功績を立てるために動く
それらによって事件が進展しない現状に苛立ったブラコフがこぼした言葉が密告されて……というシーンまで存在する

あまりロシア史に詳しくなくても、展開などからソ連社会のさまざまな欺瞞が伝わってくるようになってるのもあって面白かった
チカチーロが目当てだと微妙だけど、純粋にソ連舞台のハードボイルド映画として出来がいいのでオススメ
優希

優希