30億を巡って悪党たちが殺し合う映画。長文です。
面白かったです。観ている間、ずっとニヤニヤしてしまいました。なぜニヤニヤしてしまったかと言うと、これは本当に馬鹿にしてると誤解されたくないのですが、この作品がとても下手だったからです。
何を言っているかちょっとわかりにくいかもしれませんが、脚本、カメラワーク、編集、役者、すべてが下手だったからこそ、この映画はとても面白かったのだと思ってます。昔、まだ指定席も入れ替え制もなく、二本立て上映が普通だったころ、本命映画を観るために仕方なく観た併設作品の感覚が蘇るかのようでした。
ストーリーはいたってシンプルです。30億円の秘密を握る女性を巡って悪党どもが殺し合い、その物語の中でその女性と主人公は恋をする(正確に言うと、マジで恋する5秒前ぐらいになる)と言うもの。しかしなぜだかちっとも話が頭に入って来ません。
登場人物が出て来る度に入る、その人物の説明。異常に間のある、ダラダラとした会話、なぜかいつも一呼吸置いてから途切れるカット、悪党しかいないはずなのにまったく怖くないというチープ感、これらすべてがシンプルなはずのストーリーをまったく理解させてくれないのです。あと追い付きそうで追い付かないというサスペンスで定番のチェイスシーンも、追う側が追い付いてしまいそうなので、明らかに意図的に減速してるなんてゴキゲンなシーンもストーリーの邪魔をしてます。
つまりカルト、完全なカルト映画なのです。しかもやりたいことがわかるタイプと言うか、何がやりたかったの？ というわかりにくさではなく、やりたいことはわかるんだけど、単純に下手だからできてない、みたいなタイプのカルト映画なのです。
そして私はそういうタイプの映画が大好きです。映画において、やりたかったことができてないなと思う瞬間はたくさんあります。お金がなかったから、人手が足りなかったから、技術的な問題、規模的な問題、制作環境の問題。様々な理由によって、やりたかったことができなかった作品は存在します。しかしこの映画に限って言えば、やりたいことができなかった理由、それは下手だったから。その一言に尽きます。もちろん金銭的な問題も感じました。マンパワーも足りなかっただろうし、環境の問題もあったでしょう。しかしそれ以前に下手なのです。もうどうしようもないほど下手なのです。
でもしかしそこで諦めるわけにはいかない。壮大な映画をおれたちは作るんだ！ この気概。下手とかじゃないんだ、と。下手だから映画が撮れないなんてこと、もちろんない。そもそも自分が下手だなんて思って撮り始めるわけない。しかし隠しきれない下手さ。埋めがたい下手さ。
いやぁ、映画って本当に、良いものですね。

誰でも映画を撮ることができる裕福な現代社会が生んだ、悲劇の映画。長い長い90分。

いままでで一番強敵だった勝ちっこない